2型糖尿病は,インスリン分泌不全と相対的なインスリン抵抗性により発症するが,日本人は欧米人に比べてインスリン分泌能が低く,軽度のインスリン抵抗性の増大でも耐糖能異常が生じやすい。2型糖尿病発症の約10年前よりインスリン分泌能は低下し,糖尿病発症時にはインスリン分泌能は約半分に低下している1)。
1型糖尿病は,膵β細胞の破壊によってインスリン分泌β細胞マス(容積)がほぼなくなる疾患である。近年,2型糖尿病患者の剖検結果より,2型糖尿病患者でもβ細胞マスが低下することが報告され,β細胞マスの低下がインスリン分泌能低下の主因のひとつと考えられるようになった2)。したがって,β細胞マス低下の抑制は,糖尿病の発症や進展の治療標的となる。DPP-4阻害薬やG LP-1受容体作動薬などのインクレチン関連薬は,β細胞マス低下を抑制(β細胞保護)することが示唆されているが,インスリンそのものがβ細胞マス低下を抑制することはあまり知られていない。
インクレチン関連薬はβ細胞のGLP-1受容体を介して,インスリンはβ細胞のインスリン受容体を介して,β細胞死を抑制しβ細胞マスの低下を抑制する。よって,インクレチン関連薬とインスリンの併用は,β細胞マスの低下を抑制する観点からも推奨される治療法のひとつである。今後,耐糖能異常早期における,インクレチン関連薬とインスリン治療の有用性を検討する必要がある。
【文献】
1) Mudaliar S, et al:Endocrinol Metab Clin North Am. 2001;30(4):935–82.
2) Butler PC, et al:Nat Clin Pract Endocrinol Metab. 2007;3(11):758-68.
【解説】
藤本 啓 東京慈恵会医科大学附属柏病院 糖尿病・代謝・内分泌内科准教授