ポルフィリン症とは,ヘム合成経路に関与する8つの酵素いずれかの先天異常が病因でヘム合成経路が亢進し生じる疾患の総称である。臨床的には,急性発作を生じる急性ポルフィリン症〔デルタアミノレブリン酸(ALA)脱水酵素欠損ポルフィリン症(ADP),急性間欠性ポルフィリン症(AIP),遺伝性コプロポルフィリン症(HCP),多様性ポルフィリン症(VP)〕と光線過敏性皮膚炎を生じる皮膚ポルフィリン症〔先天性骨髄性ポルフィリン症(CEP),晩発性皮膚ポルフィリン症(PCT),肝性骨髄性ポルフィリン症(HEP),プロトポルフィリン症(EPP),および間欠期のHCPとVP〕にわけられるが,本稿では急性ポルフィリン症について記載する。
急性ポルフィリン症発作時には,急性腹症,イレウス,虫垂炎等を思わせる腹部症状,ヒステリー様の精神症状,末梢神経炎,ギラン・バレー症候群,スモン,てんかん等を思わせる神経症状を呈する(三徴:腹部症状,精神症状,神経症状)。急性腹症を思わせる腹部症状が初期にみられ,後にヒステリーを思わせるような精神症状を呈し,最後には四肢麻痺,球麻痺等の神経症状を呈し,死に至ることもある。これらの症状は,病状の進行に伴い多彩に変化する。腹部症状に対応する器質的な異常は認められず,神経系の機能的異常によるものと考えられている。よくみられる症状は嘔気・嘔吐,便秘,下痢,腹部膨満,腸閉塞,尿閉,失禁,排尿異常,頻脈,高血圧,発熱,発汗過多である。非発作時(間欠期)は無症状だが,HCPおよびVPでは,光線過敏性皮膚炎が時にみられる。
病型診断は,病因遺伝子異常によるへ厶合成経路酵素活性低下部位より上流の基質や代謝産物の測定により行われるが1),急性発作時の治療は病型によらないので,急性ポルフィリン症かの診断が重要である。この診断は,尿中ポルフォビリノーゲン(PBG)およびALAの増加の確認で可能である。尿は,10~30%の症例で特有のぶどう酒色を呈する(ポルフィリン尿)が,ADPやAIPでは尿中ポルフィリンはあまり増加せず褐色調にとどまることが多い。肝機能では軽度の黄疸,肝酵素の中等度の増加,ChEの低下などがあり,肝炎と誤られることがある。低ナトリウム血症,低クロール血症が半数以上にみられ,SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)によるとされる。高血糖は60%で,耐糖能異常はほぼ全例にあり,乳酸,ピルビン酸も増加する。高コレステロール血症,高中性脂肪血症も多い。心電図ではSTの低下や陰性化などの虚血性の変化が多い。
残り809文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する