(質問者:東京都 S)
多くの疫学研究や臨床研究により,HbA1c上昇と慢性合併症のリスク増加の間の密接な関連が明らかにされた結果,糖尿病患者における慢性合併症の発症抑制や進展遅延を目的としたHbA1cの治療目標値が設定されています。長期的な血糖管理の指標としてHbA1cが優れていることはいまさら指摘するまでもありませんが,HbA1cが糖化を受けたHbの割合(%)として表されるのに対して,日々の血糖値測定や血糖コントロールがmg/dL(あるいはmmol/L)で表される血糖値に基づいて行われていることも,また一方の事実です。このため,長期的な血糖管理目標を血糖値の急性変化を表すmg/dLと同じ単位で表すことができないかとの発想から,平均血糖値(average glucose:AG)の概念が生まれました。
(1)DCCT研究
米国で1型糖尿病患者を対象として行われたDiabetes Control and Complications Trial (DCCT)研究では,年4回(3カ月ごと)のHbA1c測定と同時に,家庭で1日7回(毎食前,毎食後90分,就寝前)の毛細血管血糖値測定(自己血糖測定)が行われました1)。その後,試験参加者の血糖値プロフィールの解析から,試験参加者(1439例)についての平均HbA1cと平均血糖値(AG)が算出され,HbA 1cとAG(mg/dL)の間には,相関係数0.82の直線的な相関関係〔AG(mg/dL)=(35.6×HbA1c)-77.3〕があることが示されました2)。
(2)ADAG研究
HbA1cとAGの間の数学的関係をよりよく定義する目的でデザインされ,より最近に(2006~2008年)行われたA1c-Derived Average Glucose Study(ADAG研究)では,18~70歳の1型糖尿病患者(n =335),2型糖尿病患者(n=236),非糖尿病者(n=90),計661例が参加し,最終的に507例のデータが解析されました。HbA1c値に影響を及ぼす貧血や赤血球ターンオーバー変化などの可能性のある検体は解析から除外されています。本研究では,週3回以上1日7回の毛細血管血糖値測定(自己血糖測定)と,最低2日間の連続持続血糖測定(C GM)が計4回ずつ施行されました。1日の測定回数はCGMが288回程度,自己血糖測定が7回と,後者が圧倒的に少ないため,各測定結果が同一測定日の全測定回数の逆数に比例するように重み付けして推定平均血糖値(estimated AG:eAG)が算出された結果,線形回帰分析に基づくeAGとHbA1cの間の相関が,eAG(mg/dL)=(28.7×HbA1c)-46.7(r2=0.84)の計算式で示されました3)。
残り1,014文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する