1 甲状腺機能亢進症と甲状腺中毒症
英語で,甲状腺機能亢進症は“hyperthyroidism”,甲状腺中毒症は“thyrotoxicosis”と表記される。この用語の使いわけが難しい,わかりにくいとの指摘がある。特に「中毒症」という言葉が,フグ中毒,アルコール中毒といったマイナスのイメージを連想させるためかもしれない。しかし,この2つの用語の使いわけは決して難しいわけではない。
甲状腺中毒症の原因のひとつとして,甲状腺においてホルモンが多くつくられすぎる場合があるが,この状態を甲状腺機能亢進症と呼ぶ。つまり甲状腺機能亢進症は,甲状腺中毒症の一部なのである。
診療にあたっては,甲状腺中毒症(甲状腺ホルモンが過剰の状態)が,甲状腺ホルモン合成を抑えるために抗甲状腺薬が必要な状態(甲状腺機能亢進症でホルモンが多くつくられすぎる状態)なのか,あるいは経過観察,対症療法のみでよい状態(破壊性甲状腺炎などにより甲状腺が壊れてホルモンが漏れ出た状態)なのかを常に念頭に置く必要がある。
両者の違いを正確に把握していることは,治療法を決定する上でも重要である。
2 甲状腺中毒症を見逃さないための第一歩
(1)通常の診察
ごくありふれた脈を診るなどの診察で,頻脈・不整脈はもちろん,皮膚の湿潤,手指振戦といった甲状腺中毒症に関する重要な情報が得られる。
(2)頸部視診・触診
前頸部の膨隆に気がつけば,甲状腺疾患診断のきっかけとなるかもしれない。バセドウ病のように甲状腺腫が大きければ,これを見逃すことはないだろう。ただし,甲状腺腫を触知しなくても,甲状腺中毒症がありうることは言うまでもない。
甲状腺の触診法,甲状腺横径の測定方法を会得する。
(3)臨床症状,生化学所見
動悸,暑がり,易疲労感,イライラ,体重減少,軟便,月経不順などがあるが,突眼,前脛骨粘液水腫などを除き,個々の症状には特異的なものがない。
甲状腺中毒症に認められる生化学所見には,血清コレステロール,Cr,CK低値,ALPの上昇などが認められる。検診や人間ドックでは,経時的な変化が,特に甲状腺中毒症の手掛かりになることがある。
3 甲状腺中毒症の分類
(1)甲状腺機能亢進症
1)甲状腺刺激物質を原因とするもの
2)甲状腺の自律的活動亢進によるもの
(2)破壊性甲状腺炎
(3)外因性甲状腺中毒症
4 甲状腺中毒症の診断の進め方
甲状腺中毒症を疑えば,一般生化学検査,検尿などのほかに次の検査を行う。
(1)TSH,FT4,FT3
(2)TRAb,TSAb,TgAb,TPOAb
(3)超音波検査
(4)シンチグラフィー
以上の検査を上手に組み合わせて,診断を進める。