食道が横隔膜を貫通する食道裂孔から胃の一部が縦隔内に脱出した状態を食道裂孔ヘルニアと言う。食道胃接合部が横隔膜上に脱出する滑脱型,食道胃接合部は横隔膜下にとどまり胃のみが縦隔内に脱出した傍食道型,滑脱型と傍食道型が混在した混合型の3つの型がある。原因としては先天性,腹圧の上昇,食道炎による食道短縮,加齢による組織の脆弱性変化などが考えられている。
上部消化管内視鏡検査で食道胃粘膜境界の肛門側に囊状の胃粘膜を認めたり,胃内反転観察により噴門部近傍に囊状の胃の脱出を認めた場合,また上部消化管造影にて横隔膜より上方に食道胃接合部や胃穹隆部の脱出を認めれば,食道裂孔ヘルニアと診断できる。
一般的には2cm以上の胃粘膜の脱出がある場合に食道裂孔ヘルニアと診断することが多いが,わが国では多くの食道裂孔ヘルニア診断は内視鏡検査により行われ,深吸気時に2cm大の食道裂孔ヘルニアを観察することはかなりの頻度でみられる。内視鏡検査と高解像度食道内圧検査で食道裂孔ヘルニアの診断を比較した検討では,食道内圧検査にて2cm以上のヘルニアと診断できたものは,内視鏡の深吸気時の観察では4cm以上の食道裂孔ヘルニアを認めた場合であった1)。内視鏡検査による食道裂孔ヘルニアの診断は過剰評価となっている可能性もあり,内視鏡時に食道裂孔ヘルニアを評価するには深吸気時ではなく,通常呼吸時に診断するべきと考える。
食道裂孔ヘルニアは逆流性食道炎発症の要因のひとつであり,食道裂孔ヘルニアと逆流性食道炎,酸排出時間,食道内酸曝露時間との関連をみた報告では,食道裂孔ヘルニアの増大により逆流性食道炎の重症化,酸排出時間の延長,酸曝露時間の延長がみられている 2)3)。
症状のないものや軽度なものでは食道裂孔ヘルニアの治療の必要はないが,逆流症状を伴うもの,逆流性食道炎を合併した場合は,まず酸分泌抑制薬による薬物治療を行う。内視鏡で深吸気時に3~4cm未満の食道裂孔ヘルニアの症例,軽症の逆流性食道炎を合併した症例に対しては,プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(potassium-competitive acid blocker:P-CAB)のボノプラザンフマル酸塩を用いた初期治療および維持療法を行う。内視鏡で深吸気時に4~5cm以上の食道裂孔ヘルニアがみられる症例,重症の逆流性食道炎を合併した症例に対しては,ボノプラザンフマル酸塩を用いた初期治療および積極的な維持療法が必要である。これらの薬物治療を行っても逆流症状や食道粘膜傷害の改善が得られない薬物療法抵抗例や,誤嚥性肺炎や通過障害,嵌頓ヘルニアなどを合併した症例は手術療法の適応となる。
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