近年,大学での漢方医学教育が一般的になり,また多くの臨床研究が報告されていることもあり,漢方薬を日常診療に用いる医師が増えている印象を持ちます。しかし,その多くは診療に医療用漢方エキス製剤(以下,エキス製剤)を用いるのみであり,漢方薬本来の形である生薬を用いた治療は行えていないのが実情ではないでしょうか。煎剤,散剤,丸剤など,生薬を組み合わせた漢方薬を用いた診療の魅力やメリット,あるいは問題点,将来の展望など,エキス製剤だけを用いて漢方治療を行う場合との違いについて教えて下さい。
福島県立医科大学会津医療センター・三潴忠道先生にご解説をお願いいたします。
【質問者】
野上達也 東海大学医学部専門診療学系 漢方医学(東洋医学科)准教授
【エキス製剤の起源である生薬診療は,処方の自在性や有効性から必要である】
エキス製剤の普及により漢方処方が浸透してきました。しかし,生薬診療も必要です。その利点や問題点について考えてみます。
第一に利点として,生薬では自由な組み合わせや加減が可能です。たとえば複数方剤の併用(合方)において,エキス製剤では単純和になります。しかし,重複する構成生薬は各方剤中の最大量のみとする原則は,生薬処方でのみ可能です。また,薬剤過敏などに対しても,構成生薬の加減,変更が可能で,副作用回避にもなります。劇薬である附子,瀉下効果のある大黄,熱薬の乾姜などでも同様です。さらに,エキス製剤は現在148種類ですが,生薬では桁違いに多種類の方剤が使用可能です。生薬処方は多様な患者の証(漢方医学的病態)への対応に必要です。
第二に有効性については,エキス製剤は生薬を用いた煎剤を基準とし,その含有成分に近づける(指標成分定量値が70%以上)規定があるのみです1)。指標成分が必ずしも有効成分ではありません。わが国で流通しているエキス製剤は高品質で効果もありますが,エキス製剤により相違はあるものの生薬を用いた処方と同等ではありません。また,湯液における煎じ方への細かな配慮や丸剤,散剤などの剤形は長年の臨床経験から確立されており,一部は分析的にもその意義が認められていますが,エキス製剤には十分に反映されていません。
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