女性の排尿症状に関連して,いくつかのガイドラインが発行されている1-4)。器質的異常や排尿機能の異常は見られることは少なく,主訴として多いのは頻尿などの蓄尿症状である。近年,過活動膀胱(OAB)という疾患概念が定着し,多くはこの診断に至り,β3受容体作動薬や抗コリン薬により治療される。OABの特徴は尿意切迫を有することであり,診断にはこれが必須となる。
一方,尿意切迫を伴わない頻尿や,排尿時違和感,排尿時痛,蓄尿時違和感,蓄尿時痛を訴える症例も少なくなく,また既存の疾患概念では分類できない症例も少なくない。
筆者は,蓄尿症状を主訴とする女性患者に対するアプローチを図のように考えている。私見を含むものであり,既存の診療ガイドラインと異なる点があることにご留意いただきたい。
漢方薬の選択においては,患者の証を考慮した方が,治療効果が得られる可能性が高い。また処方が無効であっても,その結果を考察し,他剤への変更が奏効する可能性がある。
さらに,排尿症状に適応のない方剤でも,随伴症状の改善により排尿症状が改善することがある。筆者のこれまでの経験も踏まえ,排尿症状を有する女性患者に効果が期待できる漢方薬を表に示す。
泌尿器科疾患に適応のある方剤では,猪苓湯,牛車腎気丸が使用しやすい。牛車腎気丸はOABに対する効果も報告されている2)。痛みなどの症状が強い症例では竜胆瀉肝湯が奏効するが,著しい虚証の場合は清心蓮子飲を選択すべきである。
泌尿器科疾患に適応のない方剤でも,冷えにより症状の悪化を認めるような場合は,当帰を含む方剤の効果が期待できる。また,認知機能が低下した症例などで頻回に尿意を訴えるような場合は,抑肝散が奏効することをしばしば経験する。
このほか,下腹部症状に対する執着が強い症例も見られ,このような場合に柴胡剤を使用してみるのも一法である。