1 COPD診療に潜む2つの盲点
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の年間死亡者数は,気管支喘息患者の死亡者数の15倍以上であり,その数からも,COPDは実臨床現場で決して看過できない,重要な呼吸器系コモンディジーズである。
喘息と同様に,COPDでもガイドライン治療が診療現場に広く普及し,炎症病態の違いから第一選択薬の差はあるが,いずれも吸入療法が主軸である。気管支喘息とCOPDの死亡者数の大差は,治療薬のレベル以前に,さらに大きな盲点が少なくとも2つ潜むことを暗示する。
2 第1の盲点:診断率の低さによる治療の出遅れ
第1に,プライマリ・ケア領域を含めた臨床現場における診断率の低さから,COPD治療を通常開始するときには,既に出遅れ感がある。“スパイロキャラバン”により,多くの隠れCOPD患者がプライマリ・ケア領域にいることが示された。さらに,COPDの一般認知度の低さも影響している。
3 第2の盲点:COPDの併存症
COPDには生活習慣病をはじめ,様々な併存症がある。併存症はCOPD死亡率増加の原因にもなり,併存症数が多いほど生存率が低くなる。COPD治療は呼吸器系疾患の範疇を超え,全身的な視野を持つことが重要となる。
併存症の中で,COPD増悪に直接的に影響し,臨床的に非常に重要にもかかわらず認識されにくい疾患として,フレイルとサルコペニアがある。
4 COPDに併存するフレイル,サルコペニア
フレイル,サルコペニアはCOPD悪化の負のスパイラル形成の直接的要因である。COPD患者は,栄養障害からもサルコペニアに陥りやすい。
5 COPDに併存するフレイル,サルコペニアへの治療アプローチ
フレイルやサルコペニアへの治療介入として,現状のガイドライン治療では,リハビリテーションが最も推奨されている。しかし,プライマリ・ケア領域を含めた実際の医療現場では,リハビリテーションを実施するための設備やスタッフなどの医療資源が充足している施設は限られ,継続困難な場合が多い。
6 漢方薬への期待
フレイルは健康の範囲内で病気に近い身体や心の状態であり,漢方医学で言う「いまだ病にならざる(未病)」の状態である。
補気剤として六君子湯や補中益気湯,補腎剤として八味地黄丸や牛車腎気丸,気血双補剤として十全大補湯や人参養栄湯が効果的である。
7 人参養栄湯による改善効果
COPD患者にみられるフレイル,サルコペニアによる負のスパイラルに対し,人参養栄湯の効果が示されており,治療アプローチできる可能性がある。
8 COPDによる死亡者数を減少させるために
COPD 1~2期の患者に対し,筆者はリハビリテーション導入に先行し,あるいはその代替となる薬物療法として,人参養栄湯などを用いている。
COPD 3~4期の患者には,患者の体力や気力,免疫力,さらに生命力を向上させる治療介入法として,人参養栄湯を用いている。