病院側にニーズはあるものの教員の不足などで普及が進んでいない「初期研修医に対する漢方教育」を巡る討論が2月11日、都内で開催された「漢方医学教育SYMPOSIUM」(日本漢方医学教育振興財団主催)で行われた。この中で筑波大地域医療教育学教授の前野哲博氏は、漢方を専門としない総合診療科医の立場で初学者向けアプリ「漢方薬選択ガイド」を開発したことを紹介した。
「漢方薬選択ガイド」は、短時間でファーストチョイスの方剤を絞り込めるツールとして開発。研修医など漢方医学初学者がPCやスマホで利用できる。難解な証の用語を避け、症候、年齢、性別、体力(丈夫・普通・虚弱)などを入力項目とした。
前野氏は、漢方医学を系統的に習っていない初学者には「(漢方薬に)手を出してはいけない」というハードルがあるとし、「まず使ってみる、そして漢方の重要性に気づくことがハードルを越える第一歩として重要」と指摘。「総合診療科では西洋薬で症状をコントロールできない患者がたくさんいるので、(漢方医学教育の)ニーズはある。しかし、系統的な教育を前に出すと壁を感じる初学者もいる」と述べ、「証に自信が持てなくても、許容範囲の方剤を出すための後押し」になるツールが求められているとした。
一方、東海大漢方医学教授の新井信氏は、神奈川県4大学医学部FDフォーラム(東海大、北里大、聖マリアンナ医大、横浜市大)で開発した新しい漢方医学教育システム「漢方医学eラーニングコース」を紹介した。
新井氏のグループは、臨床研究病院の実態調査を基に、「自宅や空き時間に手軽に学習が可能」「1回当たりの学習時間が短い」「繰り返し学習が可能」などの条件を満たす学習ツールが求められていると分析。漢方初学者が学ぶべき基本10処方(補中益気湯、半夏厚朴湯、加味逍遥散、五苓散、抑肝散、六君子湯、大建中湯、大黄甘草湯、八味地黄丸、葛根湯)や漢方の基本概念など12レッスンからなる「漢方医学eラーニング〈基礎編〉」を開発した。
当初は卒後臨床研修への導入を考えていたが、新型コロナの影響で多施設への導入が難しくなったため、対面授業が困難になった医学生(東海大医学部3年生)の教育に使用。受講前後で「興味と必要性」「使用理解度」が有意に向上し、臨床研修にも応用できる可能性があることが確認されたという。
新井氏は、〈基礎編〉の英語版を作成するとともに、卒後臨床研修で使用する「漢方医学eラーニングコース〈臨床応用編〉」の開発も進めていると説明。「漢方医学eラーニングコース」には漢方医学教育振興財団ホームページからもアクセスできるとし、活用を呼びかけた。
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