今回は,これからの世の中に欠かせない喫緊の課題でもある,職場における私病の治療と仕事の両立支援についてお伝えしたいと思います。
『平成25年版 高齢社会白書』によりますと,わが国の総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は2012年では24.1%となっています。当時は,「団塊の世代」と言われる1947~49年生まれの人たちが65歳になり始めた時代でした。高齢化率上昇の傾向は今後も変わらず,2035年には33.4%に,2060年には39.9%になると言われています。また,その頃には,実に総人口の26.9%が75歳以上の後期高齢者になると言われています。そうした背景から,育児や介護と仕事の両立,私病の治療と仕事の両立などの支援は,わが国の喫緊の課題です。
平成25年度厚生労働省委託事業である「治療と職業生活の両立等支援対策事業」におけるアンケート調査によれば,疾病を理由として1カ月以上連続して休業している従業員がいる企業の割合は,メンタルヘルスが38%,がんが21%,脳血管疾患が12%となっています。なお,国立がん研究センターの集計では,がんと診断された5年後に生存している割合(5年相対生存率)は,2003~05年には58.6%となっており,10年前の53.2%と比べても改善がみられます。この結果からも,労働者が病気になった際に,必ずしも“すぐに離職しなければならない”というものではなくなってきていると言えると思います。
2018年の労働政策研究・研修機構(JILPT)の企業を対象とした調査では,過去3年間で,疾患罹患者が「いる」とする企業割合は糖尿病25.2%,がん24.3%,心疾患10.7%,脳血管疾患8.3%,難病8.0%,肝炎4.6%でした1)。この調査対象となった企業の4分の1に,糖尿病やがんに罹患している社員がいることになります。
また,連続1カ月以上の療養を必要とする正社員が出た場合に「ほとんどが病気休職を申請することなく退職する」「一部に病気休職を申請することなく退職する者がいる」とした企業は,メンタルヘルスの不調の場合は約18%,その他の身体疾患の場合は約15%であり,過去3年間で病気休職制度を新規に利用した労働者のうち,約38%が復職せず退職していた2)という集計もあります。
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