在宅医療利用者(特に進行したがん疾患患者)では,しばしば発熱が認められる。本稿では,主に在宅医療における進行がん患者の発熱について述べる。
進行がん患者においては,発熱の原因を考えることが重要である。出現する発熱の原因は,主に感染症による炎症,あるいは炎症性サイトカイン(IL-1,IL-6,IFNα,TNFなど)による炎症反応(腫瘍熱)である。がん患者の発熱の原因として「腫瘍熱」を常に念頭に置く必要がある。
高体温と発熱を鑑別する。発熱とは,視床下部での体温基準値の上昇に伴い体温が上がる状態である。一方,高体温とは,視床下部での体温基準値は変わらないが,外部からの高熱にさらされたり,熱喪失機構の障害により体温が上昇する病態で,NSAIDsは無効であり,クーリングを行う。
感染症と非感染症を鑑別する。
発熱の原因を求める上で重要なポイントは,感染症か非感染症かの診断である。具体的には,病歴の聴取(onsetとtime characteristic),バイタルチェック(qSOFA*スコアをチェック),診察(細菌感染ならフォーカスの同定),検査(採血,採尿,培養,超音波検査)等である。腫瘍熱の診断は除外診断であることに注意する。
*:qSOFA(quick sequential organ failure assessment)は敗血症の診断基準である。感染症が疑われ,①呼吸数≧22/分,②意識レベルの低下,③収縮期血圧≦100 mmHg,のうちの2項目以上を満たす場合に敗血症を疑う。
在宅のがん患者は,基礎疾患,栄養状態不良,治療(抗癌剤治療,放射線治療)による免疫能の低下,コルチコステロイドの使用,皮膚・粘膜バリアーの破綻(褥瘡・口内炎など),各種カテーテルの留置等の要因により易感染状態にあり,感染症に罹る可能性は高い。しかし,発熱が感染症に起因しているか判断が難しい,在宅医療の現場においても抗菌薬治療は行われているがその効果は感染臓器によりまちまちである,また,抗菌薬治療による症状改善の予測が難しい,という現状がある。
在宅医療利用患者に起きやすい感染症は,細菌感染>ウイルス感染>真菌感染の順である。細菌感染症の特徴としては,局所の症状が強い,治療しなければ増悪していく,病状悪化の進行が速い(時間~日の単位の進行),適正な抗菌薬治療をすれば治癒も期待できる,というようにとらえることができる。そして,感染巣を確定することが重要である。在宅医療利用患者に起きやすい感染フォーカスとしては,呼吸器感染症,尿路感染症,胆道系感染症,創部感染症,カテーテル関連血流感染症,Clostridioides difficile infection(CDI),が挙げられる。
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