COPDの治療では,呼吸器症状のみならず全身状態の管理が必須であるため,COPDに随伴する全身状態の悪化(食欲不振,易感染性など)を改善するような治療が重要な位置を占める。漢方医学ではこういった役割を持つ方剤を「補剤」と呼ぶ。補剤とは,不足するもの・消耗するものを「補う」という漢方医学独特の概念であり,巽らは補剤の代表格である補中益気湯がCOPD患者における炎症や栄養状態を改善させることを報告している1)。また近年フレイルの治療薬として注目されている人参養栄湯も,補剤としてCOPDに有用な漢方薬とされている。COPDに対する人参養栄湯の効果は,ランダム化比較試験において,フレイル状態にあるCOPD患者の増悪の重症度やQOLを有意に改善したと報告されている2)。
本症例で用いた八味地黄丸もまた補剤と呼ばれる処方の一つである。滋養・強壮作用により腎虚に対応するもので,いわゆる「老人病の薬方」とも言われる。夜間頻尿や腰痛,下肢の冷えや足底の煩熱などが使用目標となる。
COPDに対する八味地黄丸の効果については,未だ動物実験レベルではあるが,COPDマウスモデルでの気管支肺胞洗浄液(BALF)中の炎症性細胞や炎症性サイトカインの抑制などが報告されており3)(図),前述の補中益気湯と同様の効果も示唆される。