慢性胃炎は,正しくは組織学的に胃粘膜の慢性的な炎症性変化を認める組織学的胃炎を表している。しかし,日常診療でよく用いられる病名としての慢性胃炎は,組織学的胃炎のほかに,胃痛や胃もたれなどの自覚症状があるが原因が認められない機能性ディスペプシアや,内視鏡や胃透視を用いた画像診断で診断された形態学的胃炎が含まれた疾患概念で用いられることが多い。また,日常診療では検査や投薬のための保険病名として用いられることも多い。組織学的胃炎の大部分はヘリコバクター・ピロリ(以下,ピロリ菌)感染によるものであり,ピロリ菌感染が確認された場合は「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」という保険病名となる。
保険適用上ピロリ菌の感染診断は,内視鏡検査で胃炎が認められた場合に行うことができ,内視鏡検査前にピロリ菌の感染診断を行うことは認められていない。内視鏡検査により逆流性食道炎,消化性潰瘍,胃癌などの器質的疾患を除外するとともに,胃粘膜を「胃炎の京都分類」等を参考に観察する。胃炎の京都分類は,ピロリ菌未感染の正常粘膜,ピロリ菌感染粘膜,ピロリ菌既感染粘膜を内視鏡的に診断するために内視鏡所見を分類したものである。内視鏡所見でピロリ菌感染を疑う場合に感染診断を行う(具体的な感染診断方法については「ヘリコバクター・ピロリ感染症」の稿を参照)。
ピロリ菌感染以外を原因とする慢性胃炎の頻度は高くないが,ピロリ菌以外のヘリコバクター属(non-Helicobacter pylori Helicobacter:NHPH),サイトメガロウイルスや結核菌などの感染,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの薬剤によるもの,自己免疫性胃炎(autoimmune gastritis:AIG),クローン病など全身疾患に伴うもの,好酸球性胃炎など特殊な胃炎もある。
ピロリ菌感染と間違いやすいAIGの内視鏡所見は,体部主体の萎縮性変化や固着粘液が特徴的である。組織学的には,enterochromaffin-like cells(ECL細胞)の過形成やendocrine cell micronestを伴う慢性炎症細胞浸潤がみられる。血清学的には,高ガストリン血症と抗壁細胞抗体,抗内因子抗体陽性所見が重要な所見とされている(抗壁細胞抗体,抗内因子抗体測定は保険適用外)。AIGでは胃内は低酸状態であるため,ピロリ菌以外のウレアーゼ活性を持つ細菌が存在する場合があり,ピロリ菌除菌判定時に尿素呼気試験や迅速ウレアーゼ試験が偽陽性となる可能性があるため,注意が必要である。
近年,ピロリ菌以外のヘリコバクター属であるNHPH感染が注目されつつある。慢性胃炎だけではなく,胃MALTリンパ腫との関連も報告されているが,現在保険適用で行える確定診断法はなく,胃生検組織の検鏡でピロリ菌より大型の桿菌を検出した場合にNHPH感染を疑う。
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