「推算糸球体濾過率(eGFR)<30mL/分/1.73m2」例へのメトホルミン投与は世界的に禁忌とされている。乳酸アシドーシスのリスクを考慮した結果だが、心血管系(CV)疾患への影響を考慮しても妥当な基準だろうか。
この点について6月23日から米国サンディエゴで開催された米国糖尿病学会(ADA)第83回学術集会では、「eGFR<30mL/分/1.73m2」であっても2型糖尿病(DM)例に対するメトホルミン継続が有用である可能性を示す観察研究が報告された。報告者は香港中文大学のAimin Yangである。
同氏らが解析対象としたのは、メトホルミン開始後にeGFRが「<30mL/分/1.73m2」(CKD-EPI評価)まで低下した香港在住2型DM 3万5206例中、その後最低6カ月間メトホルミンを継続した2万6086例と完全に中止した7500例である。末期腎不全例や急性腎障害例は除外されている。
平均年齢はメトホルミン「継続」群:75.0歳、「中止」群:71.7歳、eGFR平均値は「継続」群:27.0mL/分/1.73m2、「中止」群:26.6mL/分/1.73m2だった(いずれも検定なし)。
心腎保護薬は「継続」群の78.3%、「中止」群の81.1%がレニン・アンジオテンシン系阻害薬を服用し、スタチン服用率は順に56.8%と60.0%だった。ただしSGLT2阻害薬服用例は、ほとんどいなかった。
これら3万3586例の転帰を、死亡までの観察期間中央値3.4年という観察期間で比較した。
その結果、「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」はメトホルミン「継続」群の16.1%、「中止」群では17.3%で発生した。
「中止」群におけるこれらイベントのハザード比(HR)は、両群の背景因子を傾向スコア・オーバーラップ重みづけで補正後、1.38(95%信頼区間[CI]:1.27-1.50)の有意高値となった。
同様に「心不全」も発生率は「17.5 vs. 17.6%」で「中止」群における補正後HRは1.55(1.43-1.66)と有意に高く、「末期腎不全」も同様だった(発生率「26.2 vs. 43.6%」、HR:1.65[1.55-1.75])。
これらの結果は、CV疾患合併の有無を問わず認められた。
「総死亡」も、メトホルミン「中止」群で有意に高リスクだった(HR:1.26[1.21-1.31]、42.9 vs. 49.5%)。
内訳を見ると「がん死」には有意差を認めないものの、「中止」群では「CV死亡」に加え「肺炎死」リスクが有意に上昇していた(HR:1.17[1.07-1.26]、10.3 vs. 10.8%)。
質疑応答では、担当医がメトホルミンの「継続」または「中止」を決める際に考慮したすべての要因が補正できているのかとの疑問が出された。メトホルミンを用いた従来のランダム化試験で観察されなかった有効性が大きく認められた点も、そのような疑念を強めたようだ。
また「継続」群におけるメトホルミン用量も明らかにはされなかった。
その一方、「eGFR<30mL/分/1.73m2」例に対するメトホルミンの有用性を検討したこと自体については、ランダム化試験不在の領域であることもあり大いに賞賛されていた。
本報告には利益相反の開示がなかった。