SGLT2阻害薬は心血管系(CV)高リスク2型糖尿病(DM)例のCV転帰改善作用が、海外で実施された大規模ランダム化比較試験(RCT、後出)から報告されている。しかしCV高リスクではない2型DM、また日本人2型DMに対するCV保護作用は必ずしも明らかでなかった。
その点を明らかにすべく、わが国でもRCT"UTOPIA"が実施されたが、SGLT2阻害薬による頸動脈肥厚抑制作用は確認されなかった。しかし"UKPDS 80"で示唆されたように、血糖降下治療とCV系保護作用出現のタイミングにはタイムラグが存在する可能性もある(遺産効果)。
そこでUTOPIA試験も延長観察を試みたが、SGLT2阻害薬による頸動脈肥厚抑制は観察されなかった。大阪大学の片上直人氏らによるCardiovascular Diabetology誌6月22日論文を紹介したい。
UTOPIA試験の対象は、日本の24施設において定期的に外来受診している2型DM例中、SGLT2阻害薬以外の血糖降下薬服用下で「HbA1c:6%-<9%」だった30~74歳の340例である。脳心腎疾患合併例が除外された比較的CVリスクの低い2型DM群である。
これら340例はSGLT2阻害薬(トホグリフロジン20mg/日)群とSGLT2阻害薬を用いない対照群にランダム化され、26カ月間観察された。なお両群とも「HbA1c<7.0%」を達成すべく血糖降下治療の強化は許されている(対照群ではSGLT2阻害薬の投与は禁止)。
その結果、26カ月後、1次評価項目である「総頸動脈内膜中膜厚(intima media thickness:IMT)」は、SGLT2阻害薬群で0.132mm減少するも、対照群(SGLT2阻害薬非服用)でも0.140mm有意に減少したため、両群間に差を認めなかった。
今回報告されたのは上記検討終了後、延長観察に応じた291例をさらに26カ月間観察した結果である(元SGLT2阻害薬群が146例、対照群が145例)。
この延長観察期間中は、治療に関する制限は一切ない。
これら291例の背景因子を介入試験開始時で見ると、平均年齢は60歳強で、6割が男性だった。
DM罹患期間は平均で12年。糖尿病性網膜症を合併していたのは2割弱で、糖尿病性腎症は約3割に認められた。
そして26カ月の延長観察期間終了時、試験開始前から52カ月間の総頸動脈IMT減少幅はSGLT2阻害薬群が0.067mm、対照群が0.08mmとなり、やはり有意差は認められなかった。
片上氏らは、対照群における降圧薬ARB処方率の有意高値(SGLT2阻害薬群37.3% vs. 対照群50.3%)、脂質低下薬処方率の高値傾向(49.3% vs. 60.0%)が動脈硬化進展に対するSGLT2阻害薬の抑制作用をマスクした可能性を指摘しながらも、今回の結果は大規模RCT"CANVAS Program"と"EMPA-REG OUTCOME"において、SGLT2阻害薬が心筋梗塞や脳卒中を減少させなかった結果と一致すると考察している。
本試験は興和株式会社から資金提供を受けた。