【概要】日本糖尿病学会学術集会が22?24日に大阪市で開かれ、「低炭水化物食は有益か有害か」をテーマにしたControversy企画(22日)が大きな注目を集めた。
低炭水化物食を推進する立場として登壇したのは、糖質を1食20~40gにコントロールする“緩やかな糖質制限食”を提唱している山田悟氏(北里研究所病院糖尿病センター)。山田氏は「食物繊維は必要」と述べ、食物繊維を含む炭水化物ではなく、糖質制限食のエビデンスと世界の動向を紹介した。
山田氏は、米国糖尿病学会が2013年に、糖質制限食を糖尿病治療食の第一選択とする勧告を発表したことに触れ、その根拠の1つとして、08年に発表された海外のDIRECT試験を紹介した。糖質制限食、地中海食、低脂肪食の3群を比較した同試験では、糖質制限食が最も体重、脂質、血糖を改善。さらに6年後も減量と脂質改善効果が維持されていることが12年に発表された。
腎機能悪化の懸念に対しては、DIRECT試験では患者のeGFRが改善していることを紹介。このほか、無作為化比較試験のメタ解析でも、糖質制限食の血糖、体重、血圧、脂質改善の有効性が示されているとし、「糖質制限食は糖尿病治療そのもの」と述べ、意義を強調した。ただ、糖尿病腎症3期以降、妊婦、小児については別途議論が必要だとした。
一方で、日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン」の食事療法で引用されている参考文献のうち、観察研究だけが糖質制限食に否定的な結果が出ていることを紹介。観察研究はバイアスや交絡因子を除外できないことに注意を促した。
●食物繊維、ビタミン、ミネラルの摂取を
もう1人の登壇者、福井道明氏(京都府立医大内分泌代謝内科学)は、「炭水化物制限食は上手く使えば非常に良い食事療法」と述べ、低炭水化物食の注意点を列挙。炭水化物を減らすと蛋白質と脂質の摂取量が増えることから、腎症や動脈硬化症が進展している患者では注意が必要だとした。特に腎症については、低炭水化物食によって腎機能が低下するとの研究を紹介し、「腎症2期は積極的適応ではなく、3期以降は適応外」と強調。
その上で、“ほどほどの低炭水化物食”の適応として、「肥満者が期間限定で行うもの」と提案。その際には、「食物繊維とビタミン、ミネラルを十分摂取すること」と注意喚起した。
●農耕民族に適応可能? 筋肉量低下?
会場との質疑では、座長の伊藤千賀子氏(Grand Tower Medical Court)が狩猟民族(欧米人)の研究を農耕民族(日本人)に当てはめることに疑問を提示。山田氏は、日本人24名によるカロリー制限食との比較試験で、糖質制限食の有効性が明らかになり、今年1月に論文化したことを紹介し、「民族を問わず、糖質制限で血糖は改善する」と指摘した。
会場からは、糖質制限によって筋肉量が減少し、それが運動量の減少につながり、長期的に脳梗塞が増加する懸念が示された。
山田氏は、「糖質制限が、すべからく筋肉量を減らすとのデータはない」と回答。これに対し座長の津田謹輔氏(帝塚山学院大)は「筋肉中のグリコーゲンが減るのでリスクはある」との考えを提示。さらに、食事療法のエビデンスを議論する際には、食事内容の調査法についても考察が必要だとし、「(低炭水化物食の)コンセンサスを得るまでは、まだ議論が必要」と述べ、同企画を締めくくった。
【記者の眼】食事療法は糖尿病患者の治療の基本だ。日本糖尿病学会が昨年発表した「日本人の糖尿病の食事療法に関する提言」の通り、日本人の病態と嗜好性にふさわしく、食を楽しみながら実践できる食事療法の構築と普及に向けて、今後も議論が重ねられることを期待したい。(N)