急性冠症候群(ACS)に対する薬剤溶出性ステント(DES)留置直後からの「P2Y12阻害薬」単剤(アスピリン抜きSAPT)は、「アスピリン・P2Y12阻害薬」併用(DAPT)に比べ大出血リスクを抑制しないだけでなく、心血管系(CV)転帰を増悪させる可能性が明らかになった。8月25日からアムステルダム(オランダ)で開催された欧州心臓病学会(ESC)学術集会にて、わが国におけるランダム化比較試験(RCT)“STOPDAPT3"の結果として、佐賀大学・循環器内科の夏秋政浩氏が報告した。
「アスピリン抜きSAPT」は、DAPT1カ月継続後からの変更/開始であれば、「3カ月DAPT継続」に比べ「死亡・心筋梗塞(MI)・脳卒中」リスクを増やすことなく「大出血リスク」を有意に減少させる。これはすでに、出血高リスク例を対象としたRCT“MASTER DAPT”で明らかになっている。しかしより早期における「アスピリン抜きSAPT」開始で同様の有用性が得られるかは明らかでなかった。
さてSTOPDAPT3試験の対象となったのは、出血高リスク冠動脈疾患、あるいはACSに対してDESが留置された6002例である。試験設計時に予定した通りの例数登録に成功した。
平均年齢は72歳、ACS例が75%を占めた。また55%が「出血高リスク」例だった。
34%が、試験前7日間に抗血小板薬を服用していた。抗凝固薬使用例はいずれも9%前後だった。
これら6002例を「アスピリン抜きSAPT」群(P2Y12阻害薬[プラスグレル]3.75mg/日)と「DAPT」群(同薬+アスピリン81~100mg/日併用)にランダム化し1カ月間、非盲検下で観察した。
両群とも追跡不能例は0.1%のみだった。
その結果、1次評価項目の1つである「大出血」(BARC出血基準3-5)発生率は、「アスピリン抜きSAPT」群4.47%、「DAPT」群4.71%で群間に有意差はなかった。
これら出血イベント発生率はほぼ試験開始時の想定通りであり、検出力不足の可能性は低い。
なおこの結果は、対象疾患がACSであるかどうかにかかわらず一貫していた(交互作用P=0.69)。
同様に、もう1つの1次評価項目である「CV死亡・MI・ステント血栓症(definite[血栓の存在を確認])・脳梗塞」発生率も「アスピリン抜きSAPT」群4.12%、「DAPT」群3.69%で有意差はなかった。イベントの発生率はこちらも試験開始時の想定通りだった。
またこの結果はACS、非ACS例を問わず一貫していた(交互作用P=0.16)。
加えて「アスピリン抜きSAPT」群では、上記CVイベント抑制作用の「DAPT」群に対する「非劣性」も確認された。ただし非劣性マージンは「1.5」と比較的広い。
他方、CVイベント中「超急性期後ステント血栓症」のみで比較すると、「アスピリン抜きSAPT」群の発生率は0.58%となり、「DAPT」群の0.17%よりもリスクは有意に高くなっていた(ハザード比[HR]:3.42、95%信頼区間[CI]:1.26-9.23)。
同様に「緊急冠血行再建術施行(標的病変以外も含む)」リスクも「アスピリン抜きSAPT」群(1.05%)で「DAPT」群(0.57%)に比べ有意に上昇していた(HR:1.83、95%CI:1.01-3.30)。
指定討論者であるスイス・ティチーノ心臓センター財団のMarco Valgimigli氏は「出血高リスク群」のみを対象とした解析も見たいとコメントしていた。
本研究はアボットジャパン合同会社からの資金提供を受け実施された。
なおSTOPDAPT3試験が報告された「HOTLINE」セッションは、ESC学術集会きっての檜舞台である。臨床に大きな影響を及ぼすと考えられる質の高い臨床試験のみが採択され、1、2を争う大会場で報告される。また学会報告とは別に記者会見の場も用意されており、場合によってはテレビカメラが入ることもある。