現在,様々な漢方薬の臨床研究が行われ,RCTやsystematic reviewもみられるようになりました。しかし,漢方薬は厳密な意味でのプラセボをつくることは難しく,また本来漢方薬は漢方的な診断概念である“証”に対して作られており,現代医学の疾患概念に対する処方ではないため,臨床研究の結果をそのまま受け入れて,現代医学の薬と同じ感覚で使用すると,本来の漢方薬の効果を発揮できない可能性や,副作用なども懸念されます。
臨床研究の内容をふまえた上での解釈と臨床応用への注意点について,慶應義塾大学・吉野鉄大先生にご解説をお願いします。
【質問者】加島雅之 熊本赤十字病院総合内科部長
【これまでの臨床研究は「漢方薬の効果が期待できる場面のリスト」ととらえる】
医学部で西洋医学を学んでいながら,卒業した段階で誰でも漢方薬を処方することができる,という自由度の高い統合医療のシステムになっているわが国ならではのご質問だと思います。
漢方薬に限らず,エビデンスは誰のためにあるのか,と考えたとき,漢方医学を専門としない医師や患者への理解促進のため,と答えることも可能であると思います。これまで行われてきた漢方薬についての臨床研究は,証を考慮しなくても効果が期待できる場面を明確化する,という意味では一定の役割があり,漢方薬を使ったことがない医師や患者の漢方薬に対する心理的障壁を下げることに大きな役割を果たし,漢方薬の使用が大きく広がる結果となりました。症状をこれまで「“気”のせい」と「診断」され,「経過観察,有事再診」となりながら,ご本人としては「有事」のままが継続し,行き場のなかった患者さんが「“気”のせいなら治療できるかも」と,いったん治療機会を得られるのは素晴らしいことです。
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