左室収縮能が著明低下していない心不全(HFmr/pEF)が肥満である場合、2型糖尿病を合併していなくても、GLP-1受容体作動薬(GLP-1-RA)でQOLを改善できることが明らかになった。ただし長期心血管系(CV)転帰に対する影響は不明である。8月25日からアムステルダム(オランダ)で開催された欧州心臓病学会(ESC)学術集会においてMikhail N. Kosiborod氏(ミズーリ大学カンザスシティ校、米国)が、ランダム化比較試験(RCT)"STEP-HFpEF"の結果として報告した。なお既報では、HFpEFに占める肥満例の割合は4割と報告されている[Owan TE, et al. 2006]。
STEP-HFpEF試験の対象は、「BMI≧30kg/m2」で「左室駆出率(EF)≧45%」、加えてうっ血所見のある症候性心不全529例である。ただし「KCCQ-CSS(心不全QOL指標)≧90」や「6分間歩行距離<100m」「糖尿病例」などは除外されている。
年齢中央値は69歳、56%を女性が占めた。BMI中央値は37kg/m2、EF中央値は57%だった。
またKCCQ-CSS中央値は59、6分間歩行距離中央値が320mと、「症状は強く運動耐容能もかなり損なわれていた」(Kosiborod氏)。
心不全治療薬は、79%がβ遮断薬、80%がレニン・アンジオテンシン系阻害薬(含ARNi)、81%が利尿薬を用いていたが、SGLT2阻害薬を服用していたのは3.6%のみだった(患者登録完了は2022年3月)。
これら529例はGLP-1-RA(セマグルチド0.25→2.4mg/週)皮下注群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で52週間観察された。
その結果、1次評価項目の1つである試験開始52週間後の「KCCQ-CSS」は、GLP-1-RA群、プラセボ群とも試験開始時に比べ増加したが、GLP-1-RA群のほうが7.8点の有意高値となった。両群間の差は試験開始直後から認められ、試験期間を通じて広がり続けた。
なおKCCQ-CSSの変化は(根拠は不明ながら)「5点」以上で臨床的に有意とされるが、転帰に影響するのは「10点」以上の変化だという[Lane T, et al. 2019]。
もう1つの1次評価項目である「体重低下」幅も同様に、GLP-1-RA群で10.7%、有意に大きかった。
2次評価項目である「6分間歩行距離」も、GLP-1-RA群で20.3mの有意高値となった。
さらにCRP(2次評価項目)とNT-proBNP(探索的評価項目)も、GLP-1-RA群で有意に低値となっていた。
安全性については、有害事象による服薬中止がGLP-1-RA群で多かった(13.3 vs. 5.3%[検定なし])。一方「死亡」は、両群とも1%強のみで群間差はなかった。
気になったのは心拍数である。GLP-1-RA群で平均「3拍/分」、プラセボ群に比べ高値だったという(”Ask the Trialists”セッションにおけるKosiborod氏発言)。この増加幅は先に2型糖尿病例で報告されている値と同等である[Andreadis P, et al. 2018]。一般論として心不全患者ではHFpEFでも、心拍数増加に伴う(CV)死亡リスク上昇が報告されている[Takada T, et al. 2014]。
それもあり関心は、GLP-1-RAがHFpEF例の長期CV転帰を改善しうるか否かに移る。しかし現時点で、それを検討している大規模RCTはないようだ。
本試験はNovo Nordiskからの資金提供を受けて実施された。
また報告と同時に論文がNEJM誌ウェブサイトで公開された。