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特発性/遺伝性肺動脈性肺高血圧症[私の治療]

No.5191 (2023年10月21日発行) P.52

大郷 剛 (国立循環器病研究センター心臓血管内科部門肺循環科特任部長)

登録日: 2023-10-19

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  • 肺高血圧症とは,何らかの原因によって肺動脈圧上昇が起こり,右心不全をきたしやがて死に至る病態のことである。臨床分類により5つに分類される。第1群に分類される肺動脈性肺高血圧症は,肺血管リモデリング等の特徴を病理学的に認め,肺血管特異的治療薬の適応となる。基礎疾患が否定された場合は特発性,家族歴やBMPR2等の遺伝子変異を認める場合は遺伝性と診断されるが,病態や治療の類似性から「特発性/遺伝性肺動脈性肺高血圧症」とカテゴライズされることが多く,本稿では他の肺動脈性肺高血圧症と区別して示す。

    ▶診断のポイント

    肺高血圧症は,通常,労作時息切れで発症し,重症化すると下肢浮腫,全身倦怠感等の右心不全症状が顕著に表れる。聴診,心電図,胸部X線,心エコー等で肺高血圧,右心負荷の所見を認めることが多いが,軽症の場合には特異的な所見がない場合もあるため,原因不明の息切れの場合には,肺高血圧症を鑑別疾患のひとつに挙げて注意深く診断することが重要である。問診や検査で原因疾患を鑑別の上診断するが,確定診断には右心カテーテル検査が必須である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    基本は,増悪因子の除去,酸素投与,抗凝固療法,利尿薬等の支持的治療をベースにして,一部のカルシウム拮抗薬著効例を除き,予後リスク分類に基づいてプロスタサイクリン,一酸化窒素,エンドセリンに関係する3系統の肺血管特異的治療(拡張)薬を使用する。肺血管特異的治療薬は,最新の2022年欧州肺高血圧症ガイドライン1)によるリスク分類で,軽症・中等症・重症に分類し,治療方針を検討する。

    基本的な使用法としては,ガイドラインに示されるように単剤使用ではなく,初期から多剤併用で治療を開始する初期併用療法が推奨される。副作用がコントロールできる範囲でできるだけ併用し,また,各治療薬の中で最大用量をめざして使用する。プロスタサイクリン製剤は内服,吸入,皮下注,静注と投与方法が様々であるが,その選択は重症度や薬剤コンプライアンスに従う。肺血管特異的治療薬は,頭痛等の血管拡張に伴う副作用の忍容性の問題で漸増が必要な薬剤が多い。

    肺動脈性肺高血圧症は希少難病で,難治例ではいまだ予後不良であり,本稿の処方方針のみで治療できる疾患ではなく,経験のある専門施設での治療が望ましいことを明記しておく。

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