産褥感染症は産褥熱と総称される。分娩後24時間以降から10日後までに発症する発熱性疾患で,38℃以上が2日間以上持続するものと定義される。分娩時に産道のいずれかの部位に細菌感染することで生じる。子宮内膜,会陰切開部・裂傷創部,帝王切開創部などが感染の主体である。発熱を認めることで診断されるが,腹痛,悪露の悪臭などを伴う。前期破水,早産,帝王切開術を含めた器械分娩など,産道への操作を必要とするような場合に認めやすい。
38℃以上の発熱が続く際に疑われ,腹痛および悪臭悪露を認めると診断できる。単なる膀胱炎,腎盂腎炎,乳腺炎とは症状が異なる。血液検査では,炎症マーカー(白血球数,CRP値)の上昇として認識される。診断に画像検査は必須ではないが,子宮・卵巣周囲等のエコー・フリー・スペースとして認識されることが多い。
産褥熱は産道の細菌感染であることから,治療の主体は抗菌薬投与である。起炎菌の排出を促すことで治療が奏効するため,感染の場所が子宮内腔にある場合には,排膿させる目的で子宮収縮薬を使用することが多い。
産道感染は多くの場合,腟からのグラム陰性桿菌およびグラム陽性球菌が主体で認められるため,一般的な抗菌薬で対処可能である。しかし,嫌気性菌やクラミジア感染症の場合もあり,抗菌薬使用の前に血液や腟分泌物の培養・同定・感受性検査を実施する。近年耐性菌が増加していることにも留意する。
帝王切開分娩の場合には,同様の症状でも帝王切開創部感染や血腫への感染のこともあり,注意を要する。比較的大きな子宮筋腫を伴っている場合には,変性子宮筋腫によっても発熱・腹痛などの症状を引き起こすこともある。この場合,厳密な意味での産褥感染症ではないが,同様の治療が奏効することが多く,アセトアミノフェンなどの鎮痛薬も必要とされる。
産褥期は授乳中でもあり,抗菌薬としてはβ-ラクタム系薬のうちセフェム系薬およびペニシリン系薬が推奨される。局所感染だけでなく全身性の感染症(敗血症など)が疑われる場合には,β-ラクタマーゼ阻害薬との合剤の静脈投与が推奨される。一般的に抗菌薬投与後2日程度で症状は軽快するが,3日以上症状が持続する場合には,抗菌薬の変更,静脈注射への変更,抗菌薬の増量で対処する。画像診断で子宮周囲等に血腫などが認められる場合には,ドレナージなどが必要となる場合も稀ではない。劇症型A群溶血性連鎖球菌では,急激な発症経過をたどることもあり,DIC(播種性血管内凝固症候群)やMOF(多臓器不全),ショックへの移行もあることから,症状が軽快しない場合には念頭に置くことが求められる。この場合,咽頭炎,筋肉痛などが前駆症状として認められる。
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