日本人の収縮機能低下心不全(HFrEF)に対するアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNi)による「心血管系(CV)死亡・心不全(HF)入院」抑制作用は、治療開始時血圧の高低を問わずACE阻害薬と差のないことが明らかになった。ランダム化比較試験(RCT)"PARALLEL-HF"の追加解析として11月21日、国際医療福祉大学の筒井裕之氏らがCirculation Journal誌で報告した。
対象の大半を欧米人が占めたRCT”PARADIGM-HF"では、ARNiがACE阻害薬に比べ「CV死亡・HF入院」を有意に抑制し、その抑制作用は治療開始時血圧が高いほど大きくなるものの、血圧の高低による交互作用は受けていないことが報告されている。
今回の解析対象はPARALLEL-HF試験に登録された225例である。主な導入基準は、ACE阻害薬/ARB(RAS-i)服用下で「左室駆出率≦35%」の症候性心不全、かつ「NT-proBNP上昇」かつ「直近1年間のHF入院歴」が必要とされた。
これら225例はRAS-i中止後、ARNi群とACE阻害薬群にランダム化され、二重盲検法で33.9カ月間観察された。今回の解析では開始時収縮期血圧(SBP)の高低で三分位群に分け(「≦114」「114-≦130」「>130」mmHg)、1次評価項目の「CV死亡・HF入院」リスクを、ARNi群とACE阻害薬群間で比較した。
(1)全体解析・有効性(既報)
225例全体の解析では、ARNi群における「CV死亡・HF入院」のハザード比(HR)は1.09(95%信頼区間[CI]:0.65-1.82)でACE阻害薬群と有意差はなく、減少傾向も認められなかった。
(2)開始時血圧別・有効性
開始時SBP別の解析でも、ARNi群とACE阻害薬群間の「CV死亡・HF入院」リスクに有意差はなく、またSBP高低に伴う交互作用も認められなかった(P=0.27)。ただしARNi群における「CV死亡・HF入院」抑制作用は、開始時SBPが高くなるほど減弱する傾向があった。ACE阻害薬群に対するHRは開始時SBPが低い群から順に「0.7」「1.0」「2.0」である。
先述のPARADIGM-HF試験とは逆の傾向が見られた。
(3)開始時血圧別・安全性
このように開始時SBP低値群ほど「CV死亡・HF入院」リスクが数字上は低減したARNi群だが、低血圧性有害事象も同様に、開始時SBPが低い群ほど多くなる傾向が認められた(ただし開始時SBPによる交互作用P値は0.18)。特に開始時SBP「<114mmHg」群では、ARNi群はACE阻害薬群に比べて低血圧性有害事象が有意に多かった(47.2 vs. 18.0%)。一方この群を含め「低血圧による服薬中止」率には両群間で有意な差はない(血圧の低い群から順に「22.2 vs. 7.7」「13.5 vs. 5.1」「5.3 vs. 5.9」%。交互作用P値=0.74。
PARALLEL-HF試験はNovartis Pharmaceuticals Corporationから資金提供を受け実施された。また著者9名中、最終著者を含む3名が執筆当時、同社社員だった。