去る11月11日から3日間、米国フィラデルフィアで米国心臓協会(AHA)学術集会が開催され(ライブのみ)、12月に入りメディアにも一部の録画が公開された。そこで今回の学会の目玉と目されたランダム化比較試験(RCT)"SELECT"を、現地記者会見を含め紹介したい。
GLP-1-受容体作動薬(RA)により、非糖尿病だが過体重・肥満を呈した心血管系(CV)2次予防例のCVイベントが抑制された。ただしさらなるデータ解析も必要なようだ。クリーブランド・クリニック(米国)のA.Michael Lincoff氏がLate-Breaking Scienceセッションで報告した。
SELECT試験の対象は、(1)45歳以上、(2)BMI≧27kg/m2、(3)脳心末梢血管疾患既往―をいずれも満たす1万7604例である。なお「糖尿病」例や「血糖降下薬使用」例などは除外されている。
平均年齢は62歳、女性は28%のみだった。体重は平均で97kg、BMI平均値は33kg/m2だった。また66%が糖尿病予備群(HbA1c:5.7~6.4%)だった。
CVリスクに関しては、(1)88%がスタチンを服用し(LDLコレステロール平均値は78mg/dL)、(2)収縮期血圧平均値は131mmHgだった。「良好に管理されている」とLincoff氏は別セッションで評価している。
これら1万7604例はGLP-1-RA(セマグルチド注2.4mg/週)群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で平均39.8カ月観察された。
・全般
1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」(いずれか初発)の発生率はGLP-1-RA群で6.5%となり、プラセボ群に比べ1.5%の有意低値だった(ハザード比:0.80、95%信頼区間:0.72-0.90)。
・発生率曲線
両群のカプラン・マイヤー曲線は試験開始直後より乖離を始め、その差は観察期間を通して開き続けた。この開始直後からの乖離は、同薬をCV高リスク2型糖尿病に対して用いたRCT"SUSTAIN-6"(参加者平均体重:92.1kg)と対照的である。同試験では「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」(いずれか初発)カプラン・マイヤー曲線が、GLP-1-RA群(セマグルチド注0.5~1.0mg/週)とプラセボ群間で著明に乖離し始めたのは、試験開始からおよそ1年が経過した後だった。
他方、1次評価項目の1つである「CV死亡」の発生率曲線の推移は、「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」とまったく異なっていた。GLP-1-RA群における発生リスクの減少幅が一定していないのだ。すなわち、(1)試験開始直後から両群間の差が開くのは1次評価項目と同じだが、(2)18カ月後を過ぎるとその差は縮まり始め、(3)24-36カ月の間は両群の発生率曲線がほぼ重なったまま推移、(4)そして36カ月を経過すると再びGLP-1-RA群における発生率が著減した(全体として有意差なし)。
このような「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」と「CV死亡」発生率曲線の差を埋めたのは、おそらく「非致死性心筋梗塞」だと思われる(1次評価項目中発生率が最多)。しかしカプラン・マイヤー曲線は提示されなかった(事前設定された統計手順に従った)。
以上よりLincoff氏は、GLP-1-RAによるCVイベント抑制の機序については断言を避けながらも、「厳格なRCTにおいて過体重・肥満例のCVイベントリスクを減少させた初めての体重管理療法」だと結論した。
これに対し記者会見では「体重減少とCVイベント抑制の相関」を示すデータの有無が問われた。ちなみにGLP-1-RA群では試験開始12週間後、3%弱(2.5kg強)しか減量していないにもかかわらず、1次評価項目はすでに著明に減少している。Lincoff氏によれば、この点は現在解析中だという。
また1次評価項目中、発生数が最も多かった心筋梗塞の詳細データが報告されなかった理由についても質問が飛んだ(Lincoff氏の回答は先述の通り)。こちらも「探索的解析」の報告が待たれる。
本試験はNovo Nordiskから資金提供を受けた。また同社社員4名が治験運営委員会(Steering Committee)に名を連ね、別社員1名が統計解析の補助にあたった。また同社は論文作成補助の資金も提供した。
本試験は報告と同時に、NEJM誌HPで公開された。