わが国ではがん患者が心血管系(CV)疾患で死亡する場合、中短期的には「虚血性心疾患」が最多死因となるようだ。この数字は「心不全」死の約1.5倍である。関西地方における大規模レジストリ解析の結果として、大阪大学の権泰史氏らが12月5日、Journal of the American Heart Association誌で報告した。
がん種によっては、CV疾患ががんサバイバーの最大死因になっているとの報告があるため、近年、「腫瘍循環器学」の名のもとがんサバイバーのCV疾患予防が注目されるようになった。ただしその焦点は主に「左室機能低下(心不全)」と「静脈血栓塞栓症」にあった。
今回の解析対象は1985年から2013年の間に「がん」と診断された68万2886例である。がん診断時や死亡時の詳細情報が欠落している例は除外されている。「大阪府がん登録」とリンクしたNANDE(Neoplasms and Other Causes of Death)データベースから抽出した。がん種で最多は胃癌(17.5%)、次いで大腸癌(16.2%)、肺癌(11.7%)と続いた。
観察期間中の全死亡と、死因に占める各種心疾患の割合を調べた。観察期間は263万2799人年だった(観察期間中央値はおよそ4年、最長で約10年)。また非がん患者データ[e-Stat]を参照し、非がん患者を対照とした「標準化死亡比」も算出した。
・死亡の内訳
観察期間中、33万5635例(49.1%)が死亡した。うち85.2%が「がん」死だった。非がん死における最多死因は心疾患死(1万686例)。全がん患者の1.6%に相当し、がん患者全死亡に占める割合は3.2%だった。ただし心疾患死の発生率そのものは、経年的な減少傾向を認めた。すなわち「1985-94」年にがん診断を受けた例の心疾患死発生率は「528」/10万人年だったが、「1995-2004」年では「357」、「2005-13」年は「347」まで減少した。
・心疾患死の内訳
心疾患による死亡で最も多かったのは虚血性心疾患死(46.9%)、次いで心不全死(33.7%)だった。
・非がん患者と比べたリスク
また虚血性心疾患死、心不全死ともそのリスクは、非がん患者よりも有意に高かった。すなわち標準化死亡比(95%信頼区間)は虚血性心疾患死が3.26(3.17-3.35)、心不全死が2.69(2.60-2.78)だった。この標準化死亡比は、がん診断直後を除くと虚血性心疾患死、心不全死とも時間が経つほど上昇する傾向を認めた(特に虚血性心疾患死)。
権氏らは本研究が日本におけるがん患者心疾患死の実態を明らかにした初の報告としながらも、観察期間の長さが十分ではない可能性を指摘している。
本研究は厚生労働省の支援を受けた。