甲状腺の自己免疫性疾患である。病理学的にはリンパ濾胞の形成,甲状腺上皮細胞の好酸性変性,結合組織の新生,リンパ球浸潤と定義されている。中高年女性に多く,男女比は1:20~30である。甲状腺機能低下症は潜在性も含めて20~30%くらいであり,多くは正常である。わが国の人間ドックのデータでは,平均年齢51.3±9.0歳の対象で抗サイログロブリン抗体(TgAb),抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)のいずれかの陽性率は男性17.7%,女性31.4%と報告されている1)。
原則は病理診断であるが,実臨床では生検の代わりにTgAb,TPOAbの測定が行われる。典型的には弾力のあるびまん性甲状腺腫を認めるが,TgAbまたはTPOAb陽性で甲状腺機能正常かつ甲状腺腫を認めない例も存在する。このような場合,使用しているTgAb,TPOAb試薬の感度,特異度を考慮して診断する必要がある。過剰な診断を防ぐという目的から,TgAb,TPOAbの特異度100%の値をカットオフ値として診断することもひとつの方法である。
慢性甲状腺炎に腺腫様病変,乳頭癌,悪性リンパ腫が合併することがあるので,初診時にエコー検査を行う2)。
甲状腺刺激ホルモン(TSH)が基準範囲内であれば,原則半年~1年に1回の定期検査を行う。甲状腺機能が正常なら原則治療は必要ない。
出産後1年以内は,産後2カ月目くらいから無痛性甲状腺炎,甲状腺機能低下症,稀ではあるがバセドウ病に変わることもある。産後は3カ月に1回くらいの割合で経過観察する。
甲状腺中毒症を認めた場合は,TSHレセプター抗体(TRA b)を測定する。TRAb陰性であれば,ほとんどは無痛性甲状腺炎であり,動悸が強い場合はβ遮断薬を投与する。全経過3~4カ月で甲状腺機能低下症から正常に戻るが,継続する場合がある。稀に慢性甲状腺炎からバセドウ病に変わる場合がある。この場合は,ほとんどの症例でTRAbは陽性化する。
巨大甲状腺腫を認め頸部圧迫症状が強い場合や,気管が圧迫されて気管狭窄を認める場合は甲状腺全摘術も考慮する。
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