逆流性食道炎(reflux esophagitis:RE)は,胃内容物(主に胃酸)の食道への逆流により食道粘膜にびらんや潰瘍をきたした状態である。REは内視鏡で食道粘膜傷害があれば診断され,症状の有無は問わない。したがって,無症候性のREも存在する。胃食道逆流症(gastro esophageal reflux disease:GERD)としばしば混同されるが,GERDは非びらん性胃食道逆流症を含む,逆流症状とREを包括した概念である。
REの定義からは,厳密には内視鏡で診断される。しかし実地臨床では,「胸やけ」「呑酸」といった症状はQOLを著しく低下させることから,内視鏡検査を待たずに症状からREと診断して治療が開始される。症状から診断する場合,胸やけ以外の症状にも留意する必要がある。症状を取りこぼさずにREを診断するためのツールとして質問票がいくつかあるが,Fスケール(FSSG)問診票が多く用いられている。
治療に際しては,肥満者での減量,禁煙,遅い夕食の回避,就寝時の頭位挙上などの生活指導をまず行う。
症状はQOLを著しく低下させることから,治療のエンドポイントは粘膜治癒とともに症状消失の両者である。酸分泌抑制力と治癒率は相関することから,強力に酸分泌を抑制するproton pump inhibitor(PPI。エソメプラゾール,ラベプラゾール,ランソプラゾール),potassium-competitive acid blocker(P-CAB。ボノプラザン)が用いられる。日本人に多い軽症例(ロサンゼルス分類grade A,B)ではPPIとP-CABの効果は互角であるが,重症例(grade C,D)では酸分泌抑制力が最も強いP-CABを用いる。
PPIあるいはP-CABの内服により,症状は数日で消失する。しかし,粘膜傷害の治癒をめざすにはPPIでは8週間,P-CABでは4週間の初期治療をしっかり行う。重症例は狭窄などの合併症予防のため,いっそう確実な治療が求められる。
症状からREを診断する場合,軽症であっても症状が重い例,重症であっても症状が軽い例があり,症状からは重症度が推測できない点に留意する必要がある。
根本的なREの治療は酸逆流防止であるが,実地臨床で有効な内服薬はなく,内科治療抵抗例,内科的管理が難渋する例では,外科的治療が考慮される。腹腔鏡下逆流防止術が行われるが,近年,内視鏡的治療である逆流防止粘膜切除術(anti-reflux mucosectomy:ARMS,endoscopic submucosal dissection for gastric esophageal reflux disease:ESD-G),逆流防止粘膜焼灼術(anti-reflux mucosal ablation:ARMA)が保険適用となった。
REは再発しやすいことが知られており,長期間にわたる管理,すなわち維持療法が求められる。PPIが処方される例が多いが,食道裂孔ヘルニアを有する例や重症例といった酸逆流をきたしやすい病態,Helicobacter pylori陰性例や胃粘膜萎縮のない例など,酸分泌が保たれている病態では再発リスクが高く,より酸分泌抑制力の強い薬剤での治療を考慮する。
また,一時的な症状発現時には,飲水やアルギン酸ナトリウムを用いるとよい。
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