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先端巨大症[私の治療]

No.5208 (2024年02月17日発行) P.50

高橋 裕 (奈良県立医科大学糖尿病・内分泌内科学講座教授)

登録日: 2024-02-15

最終更新日: 2024-02-13

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  • 下垂体成長ホルモン(GH)産生腫瘍によってGH,インスリン様成長因子1(IGF-Ⅰ)の分泌過剰が起こり,手足の容積の増大,先端巨大症様顔貌などの症状および糖尿病,高血圧などの合併症,QOLの悪化,生命予後の悪化をきたす疾患である。

    ▶診断のポイント

    症状にはGH,IGF-Ⅰ過剰によって生じるものと,下垂体腫瘍による局所症状がある。特に手足の容積の増大,先端巨大症様顔貌(眉弓部の膨隆,鼻・口唇の肥大,下顎の突出,不正咬合),巨大舌などの所見が重要である。局所症状として,頭痛,視力・視野障害がみられる。その他ホルモン過剰に関連して,全身倦怠感,発汗過多,靴や指輪のサイズの増加,睡眠時無呼吸症候群,鼻声,変形性関節症,手根管症候群,月経異常の有無を確認する。高血圧,耐糖能異常・糖尿病,脂質異常を高率に合併する。診断はこれらの症状と,ブドウ糖負荷試験(OGTT)におけるGH抑制不十分(0.4ng/mL以上),IGF-Ⅰの年齢・性別ごとの正常値に対するSDスコア高値によって行う1)

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    治療法には,手術療法,薬物療法,放射線療法があるが,第一選択は経蝶形骨洞的下垂体腫瘍摘出術である。合併症および予後の改善のためにはIGF-I SDスコアの正常化が必要であり,術後正常化しない場合には薬物療法で正常化をめざす。

    標準的薬物療法は,第1世代ソマトスタチンアナログ(SSA)である。IGF-Ⅰ値が軽度の上昇(正常上限の2倍以下)の場合には,ドパミン作動薬であるカベルゴリンが有効な場合がある。第1世代SSA(オクトレオチド,ランレオチド)を増量しても効果が不十分なときには,GH受容体拮抗薬のペグビソマントの併用,第2世代SSAであるパシレオチドを用いる。第1世代SSAはIGF-Ⅰを見ながら必要に応じて3カ月ごとに漸増する。また,若年発症,大きな腫瘍,浸潤性の場合,MRI T2WIで高信号や病理所見(サイトケラチン染色)でsparsely granulated somatotroph tumors(SG)と診断された場合には,第1世代SSAの抵抗性が予想される一方で第2世代SSAの効果が期待できるので,早期から第2世代SSAやGH受容体拮抗薬(ペグビソマント)の選択肢も検討する。

    副作用として,SSAでは下痢,白色便などの消化器症状,稀にイレウス,徐脈に注意する。パシレオチドはこれらに加えて70%で耐糖能が悪化するので,投与開始日より血糖をモニターし適切に治療を行う。カベルゴリンでは嘔気,嘔吐,起立性低血圧に加え,病的賭博,病的性欲亢進,強迫性購買,暴食等を呈する衝動制御障害が報告されており,患者および家族に可能性について説明しておき,本障害を認めた場合は減量または投与中止を考慮する。カベルゴリンを高用量で長期間投与する場合(週2.5mgを超える場合)には,心臓弁膜症(心エコーでモニター)に注意する。GH受容体拮抗薬のペグビソマントでは,肝障害,局所的脂肪組織肥大の副作用,7%で下垂体腫瘍増大を認める。

    上記の薬物療法の効果が不十分な場合,残存腫瘍が明らかで摘出可能であれば再手術も検討する。また,それでもコントロール困難な場合には,定位的放射線治療(ガンマナイフ,サイバーナイフ)を検討する。下垂体前葉機能低下症や中枢性尿崩症を伴う場合には,それぞれに応じた薬剤による補充を行う。

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