抗利尿ホルモンの欠乏による尿濃縮障害のために多尿をきたす疾患である。①基礎疾患に起因する続発性,②原因不明の特発性,および③家族性(バソプレシン遺伝子異常)に大別される。
口渇,多飲,低張多尿(尿量3L/日以上)を呈し,比較的急性に発症することが多い。鑑別疾患として心因性多飲症が挙げられるが,臨床症状による除外は困難であり,内分泌検査や画像検査が必要である。
本症は低張多尿を示し,尿浸透圧は300mOsm/kg以下(典型例では100mOsm/kg以下)となり,バソプレシン基礎値は低値となる。浸透圧利尿による多尿(糖尿病など)をまず初めに除外する。精密検査として5%高張食塩水試験が行われ,血漿浸透圧上昇に対するバソプレシン分泌反応の欠如が認められれば,本症と診断される。腎性尿崩症との鑑別を目的としてバソプレシン試験も行われ,本症では尿浸透圧上昇がみられる。水制限試験は苦痛が大きいために,必要な場合のみ行われる。これらの内分泌検査と並行して下垂体MRIを行い,原疾患となる間脳下垂体の器質的病変の有無を検索する。なおMRIでは,バソプレシンの枯渇を反映して下垂体後葉高信号(T1強調画像)は消失する。
間脳下垂体腫瘍(頭蓋咽頭腫,胚細胞腫瘍),下垂体炎症性疾患(リンパ球性下垂体炎,IgG4関連疾患,サルコイドーシス)が存在する場合は,原疾患に対する治療が必要である。
本症の治療はバソプレシン補充療法が行われ,半減期の長いデスモプレシンが用いられる。治療薬として,デスモプレシン経口薬〔ミニリンメルトⓇ(デスモプレシン酢酸塩水和物)〕または点鼻薬〔デスモプレシン・スプレー(デスモプレシン酢酸塩水和物)〕を選択し,1日2回(朝・就寝前)使用する。
本薬の過剰投与により低ナトリウム血症をきたすため注意が必要である。1日2回までの投与にとどめて薬効が消失する時間を設けることにより,過剰な水貯留を回避することが望ましい。デスモプレシンは作用時間が長いため,周術期など体液量が変動しやすい状況では,水分調節への対処が困難となる。そのため,周術期では血中半減期の短いピトレシンⓇ(バソプレシン)の経静脈投与が行われ,時間尿量と血清ナトリウム値を指標として水バランスを調節し,血漿浸透圧の恒常性を保つ必要がある。
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