お子様を医学部に進学させたいと考えている医師家庭は多い。保護者の時代と比較すると、昔よりも医学部が難化していることを耳にするたびに、不安を感じている保護者も多いだろう。それでも毎年9,400人前後の受験生が医学部合格を果たしている。医学部受験を恐れず、医学部受験を取り巻く最新の情報を入手・理解をして、できるかぎり早くから受験勉強に取り組むことで、医学部合格は可能となる。
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保護者の時代も、抜群に成績が良ければ、東大・京大や国公立大学医学部を目指す人が多かったはずだ。かつて医学部に関しては、一部の私立大学を除き、国公立大学医学部の難易度の方が圧倒的に高かった。1990年当時の河合塾のボーダーライン偏差値を見ると、私立大学には偏差値50前後の医学部も複数存在していた。その後、バブル経済が崩壊した後の1995年頃から、私立大学を含めたすべての医学部は、徐々に難化していった。
「就職氷河期」「失われた30年」「日本の低成長」「年功序列・終身雇用の崩壊」などを背景に、東大・京大よりも医学部へ進学した方が、一生涯を通じて医療という分野で社会貢献ができて、かつ経済的にも豊かな生活ができると考える受験生が増加したことが、医学部人気を確かなものにしたといえる。
昭和の頃までは女子が医療関係の仕事に就く場合、薬剤師や看護師を考える割合が高かったように記憶している。そもそも1995年頃まで、女子は4年制大学よりも短期大学に進学する割合が高かった。男女雇用機会均等法や男女共同参画社会の実現に向けた動きなどにより、徐々に女性の社会進出が進んだことで、医学部進学を目指す女子が増加した。また、2018年に発覚した医学部を巡る不正入試問題では、それまでの入試で女子が不利になるような選抜を行っていた複数の大学が、文科省から指摘を受けた。これを機に、全医学部で男女平等の入試が実施されるようになったことも、女子の医学部志願者が増えた理由の一つである(表1)。女子の医学部志願者が増加したことで、医学部人気の高まりと難化につながった。
東日本大震災が発生した2011年頃から、ボランティア活動に対する日本人の意識も変化してきたようにみえる。今の若い人たちには『社会貢献したい』『世の中の役に立ちたい』という意識が根底にあるのだろう。
そして、2020年から始まった新型コロナウイルスの感染拡大は、医学部志願者にも影響を与えた。毎日のようにコロナ禍の下で奮闘する医師など医療従事者の姿がニュースで流れた。コロナ禍によって医療の大切さについて実感したことで、医師になろうと考える若者たちが増えた。
自分で興味のあるボランティア活動を探して、定期的に活動している人もいる。後で述べる「大学入試改革」の影響もあり、ボランティア活動に取り組む学生は確実に増えている。
それでは、2024年度入試における医学部人気は、どうなのだろうか?
図1は、2023年の秋に実施された河合塾第3回全統共通テスト模試における学部系統別の志願者数の前年比を示している。毎年、少子化で新規高校卒業見込者数は減少し続けているが、医学部志願者は国公立大学・私立大学ともに前年比は103%となった。1年前の同じ模試を見ると、国公立大学は118%、私立大学は112%であったので、少し医学部人気は鈍化した感じもする。
医学部人気が少し鈍化した背景には、現在の高校2年生から始まる「新課程」入試の影響が少なからずあると思う。2024年度入試に臨む高校3年生および高卒生は、できることならば最後となる2024年度の現行課程入試で合格をしたいと考えており、そのために大学や学部選択において「安全志向」が働き、医学部を避けて歯学部などの他学部に流れている可能性がある。
大学入試改革は、2021年度から始まった。大学入試において、図2のように新たに「主体性」等の評価を追加することになった。
簡単に説明をすると、それまでは、英語や数学などの学科試験の成績で合否判定を行う入試だった。
新たな評価基準に加えられた「主体性」等では、部活動や生徒会活動、ボランティア活動など科目の勉強以外が評価される。医学部入試の場合には、この「主体性」等の評価がポイントになる。なぜならば、医学部は選抜方式に関わらずすべての大学で「面接試験」が実施されており、「主体性」等の評価には面接試験がとても適しているからだ。
2021年度から2023年度の入試では、高校生活がコロナ禍にあったために、「主体性」等の評価を見送る大学もあった。しかし新型コロナの感染拡大もほぼ収束して高校生活も通常に戻った。
新型コロナが収束すれば、「主体性」等を面接試験で評価されることになるだろう。何を注視すべきはひとり一人異なるが、早い時期から医学部受験を見越した、勉強以外の活動(図3)についても考えておきたい。
医学部入試の面接試験は、就職試験としての意味合いを持つ。面接試験では、①医師になりたいという意欲・自覚、②医師としての適性・資質、③患者や他科の医師、看護師など医療関係者とのコミュニケーション能力、協調性、④将来の医師像─などが評価される。
面接試験には個人面接、集団面接、集団討論、MMI(特定のテーマについての個人面接を複数回、面接担当者やテーマを変えて実施する形式)などの種類があるため、受験する大学に応じた形式で模擬面接を練習しておくことが重要だ。その際、大学が「求める人物像」をまとめたアドミッションポリシーについて質問される可能性もあるため、大学のウェブサイトなどで把握しておきたい。また、建学の精神や基本理念なども理解しておこう。つまり、受験する大学の研究をしておくことが大切だ。図4は、2023年度医学部入試の面接試験で、実際に質問された内容をまとめた。どの質問も、あらかじめ各々の大学が公表する情報を見ておかなければ、面接官の質問には返答が難しいものばかりだろう。
また、「最近の気になった医療ニュース」について聞かれることも多く、日ごろからさまざまな医療ニュースに接し、「自分がどう思うか」まで考えておくことも面接試験対策として重要になる。
世の中は急速に変化している。医療においてもAI(人工知能・生成AI)やリモート医療、ロボット医療や遠隔手術などがクローズアップされている。そのためか、以前よりも研究医を目指す受験生が増えている。
情報収集を心がけ、最新の医療動向をアップデートしておくことも意識しておきたい。
2024年度に医学部へ合格するために必要な学力を、表2にまとめている。いわゆるボーダーと言われる数値で、河合塾が作成しているものだ。国公立大学は、合格可能性が50%となる共通テストの得点率と前期個別試験の偏差値を示している。共通テストのボーダーライン得点率は、2024年度に実施された共通テスト本試験受験者の中で、河合塾の自己採点会に参加した人のデータとこれまでの各大学の合否追跡などを基に作成をしている。個別試験ボーダーライン偏差値は、河合塾の全統模試を基準にしている。
私立大学医学部へ合格するためには、最低でも偏差値60以上を必要とする。つまり昔のように偏差値50前後で合格できる医学部はないことが分かる。ごく一部の受験生を除いては、私立大学であっても滑り止めとなる医学部はないと考えて良い。
参考までに医学部以外の難関大学のボーダーを見ていただければ、医学部合格の難しさがどのくらいか分かると思う(表3)。
医学部合格は「過去問演習に始まり、過去問演習に終わる」と言っても良い。よって、できる限り早く志望校を決め、志望校の過去問を解いてみて出題傾向を把握し、学習計画を立てる。ある程度、志望校合格に必要な学力が身についたら、過去問演習に取りかかることが大切だ。過去問演習は早く取りかかるに越したことはない。医学部の現役合格率が高い高校は、中高一貫校が多く、受験で必要とされる各科目の勉強を高校2年生の3学期頃までに終えるカリキュラムを組んでいる。高校3年生からは、苦手科目克服に時間を割き、また同時に過去問演習に専念できるため、一般的な授業進度の高校よりも、中高一貫校は圧倒的に有利となる。
これから医学部を目指す高校生は入試直前まで、どのようなことに注意して勉強を進めたらいいのだろうか。学年別勉強法のモデルパターンの図を表4にまとめているので参考にしてもらいたい。
まず、高校1年、高校2年生は、合否を左右するといわれる英語と数学に比重を置くこと。先に述べたように、大学入試改革では「主体性」等も評価項目に加わったため、面接試験対策として部活動や生徒会活動、校外のボランティア活動なども忘れてはならない。
数学や理科は教科書の後半にある分野からの出題も多い。数学の「数Ⅲ微分積分」、物理の「電磁気」「原子」、化学の「天然有機化合物」「合成高分子化合物」、生物の「進化と系統」などだ。高校3年の早い時期に未履修分野の学習を一通り終え、過去問演習に入っておきたい。
保護者の時代と比較すると、大学入試は大きく変わったと言ってよいだろう。今回は省略したが、多くの大学が学校推薦型選抜や総合型選抜(かつての推薦入試、AO入試)を実施している。また医学部は、推薦選抜を中心に、一般選抜でも地域枠選抜を設けている大学も多く、入試が複雑化している。必要な入試情報を入手して、戦略と戦術を立てた上での学習が、医学部合格には不可欠になることを忘れてはならない。
現高校2年生(2024年3月時点)は、2025年に入試を迎えることになる。そして2025年度入試からは「新課程」での試験が行われる。共通テストについては、科目として新たに「情報」が追加される。国公立大学医学部を受験する場合、共通テストは長らく5教科7科目900点満点であったが、新課程からは6教科8科目1000点満点となる。ただし、「情報」についても他の科目と同様、傾斜配点となるため、志望校の配点がどのくらいなのかについて調べておくことが大切だ。また、国語や地歴公民も問題構成や出題内容が少し変化する。
一方、医学部において各大学が独自に実施する個別試験については、現行課程と大きく変わらないだろう。
現高校3年生(2024年2月時点)は、2024年度に現役合格をして欲しいと願っているが、万が一、浪人生活を余儀なくされた場合、入試問題については経過措置が取られる。簡単に言えば、新課程入試になっても旧課程で学んだ受験生には、不利にならないように共通テストや個別試験の問題が作成されることになっているので、特別に神経質なる必要はない。
医学部においては、学費が気になる保護者も多いだろう。私立大学よりも国公立大学の学費の方が低いことは昔から変わらない。国立大学の6年間の学費総額は、約350万円となる。公立大学の学費は、都道府県によって異なるが、国立大学に近い水準となっている。
さて私立大学は、どうだろうか? 全国に31ある私立大学医学部の6年間総学費の平均は、約3250万円となるが、大学によって1850万円から4740万円までと大きな開きがある。
表5は、学費の安い大学ベスト10である。大学の学費とボーダー偏差値はある程度の相関関係がある。また地域枠で入学する場合、学費免除や減額等の制度を設けている大学が多い。
昔は、何年も浪人を重ねて国公立大学を中心とした志望大学を目指す浪人生もたくさん存在したが、今は、少しでも早く医師になりたいと考える受験生とその保護者が多いため、私立大学医学部のボーダー偏差値も、昔と比較すると大幅にアップをする結果となった。
医学部の入試は、他の学部よりも受験勉強の負担が著しく高いので、少しでも早い時期から、受験を意識した勉強を開始することが、現役合格につながる鍵となる。大学入試改革で重要性が増した面接試験や小論文試験も併せて意識しておくことで、合格可能性は大きくアップするだろう。