前回の2023年版では医学部受験生がどのような学習をすべきか、という問題について書かせていただきました。簡単には、「確かに大学受験の直接の目的は大学に合格することであるが、あまりに近視眼的に合格しさえすればどんな学習方法でもよいとなれば、むしろ若いアタマをスポイルしかねない。典型が解法暗記・パターン認識の過度な詰込みである。そうして創られた浅い知性が医学部進学後の学習の妨げになっている現実を直視すべきであり、むしろ中身を本当に理解し、内容を整然と系統立てられる知的能力をつくる受験勉強こそが、大学入試においてもまた進学後の医学の勉学にも大いに力を発揮できるのだ」という内容でした。
あらためて大学入試に必要な学力とはどのようものか、を考えてみるのも必要と思われます。それは大学入試問題がどのようにできているか、何を問おうとしているかという問題でもあります。
一番単純な問題は、「知っていること」をそのまま答える問題です。知識をたくさん持っていることは学力の重要な「一部」ですから、それを問う問題があることは必然でしょう。特に英語はこれが大きな要素になります。私個人は入試問題としてはどうかと思うのですが、私大医学部ではほとんど「英単語テスト」のような問題も出題されています。英語を読むのに単語を知らなければ始まりませんから、受験生が一所懸命英単語を覚えるのは昔から変わりません。
他方、理数系の科目はどうでしょう。本来理数系の科目はある現象なり、状況を原理原則から筋立てて解明していくことを求める教科です。しかし、やったことのある問題が出題されれば「これ幸い」と即答できます。これはやはり「知っていること」をそのまま答える問題だったことになります。そこで受験生は理数系の科目についても「知っている問題」をできるだけ増やそうという方向へ受験勉強を進めていく。そして予備校もそういう指導を進めていくという現実が起こります。
しかし、彼(女)らがやがて携わる医療の世界は「知っていること」をそのまま答えとして出すという世界ではないことは、医療関係者が日々格闘している現実でしょう。同じ病気でも顕れ方は十人十色であり、ある病気と同じに見える現象が、実は全く異なる病気によるものであったということも多々あると聞いています。
実は大学入試でも見た目が異なるが本質的には同じ問題だ(またはその逆)と見抜けるかどうかが一番求められる学力なのです。無数の問題をすべて暗記することはできませんし、有害無益です。そうではなく原理原則を深くしっかり理解することで様々な現象(とくに複数の原理原則が絡み合って一見複雑な様相を呈する現象)をそこから筋立てて読み解いて行ける学力、そういう力を付ける受験勉強こそが真っ当な受験指導であるはずです。
国立大学は昔からそういう学力を見ようとする入試問題で、私大は直接知っていることを答える問題が多かったのですが、近年は私大入試もこのような思考力重視の問題へと変わってきています。それは社会全体の要請でもあり、日本の若者を正しい方向に導くという点で歓迎すべきだと言えましょう。
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