QT延長症候群は心電図でのQT時間延長(以下,QT延長)と,それに伴うtorsades de pointes(TdP)と呼ばれる多形性心室頻拍を特徴とする疾患である。QT延長症候群には,遺伝子変異を原因とする先天性QT延長症候群と,薬剤や電解質異常に伴う二次性QT延長症候群がある。
TdPが短時間で停止する場合は,眼前暗黒感やめまいにとどまる。TdPが持続する場合には失神を生じ,時に心室細動(VF)に移行して心停止を生じる。
12誘導心電図におけるQT延長が記録される。先天性QT延長症候群の診断には,リスクスコアが用いられる1)。評価項目としてQT時間に加え,運動負荷後4分のQT時間やTdPの既往,家族歴などが挙げられている。TdP発症前後の心電図では,T波の形状や極性が変わる交替性T波が観察されることがある。
QT延長からTdPを繰り返す急性期には,TdPの停止と再発予防が必要であり,硫酸マグネシウムやβ遮断薬の静脈注射が有効である。リドカインやメキシレチンなどのⅠb群薬やカルシウム拮抗薬が有効なこともある。徐脈がQT延長を増悪させてTdPが頻発する場合には,一時的ペーシングによる心拍数増加が有効である。電解質異常もTdPの発生の誘因となるため,低カリウム血症等に対して補正が必要である。TdPからVFに移行する際は,電気的除細動の適応である。
慢性期の治療では,TdPを予防するための薬物治療が中心となる。
先天性QT延長症候群の場合,遺伝型によって治療薬の有効性が異なるため,遺伝カウンセリング・遺伝学的検査を実施し,遺伝型を判定することが推奨される。いずれの遺伝型であってもβ遮断薬が有効であり,その中でもβ1非選択性β遮断薬の有効性が報告されている。先天性QT延長症候群2型・3型ではメキシレチンも有効である。2型では,血清カリウム値を≧4.0mEq/Lに保つことで,心イベントの抑制効果がある。重症例においては,植込み型除細動器(ICD)が必要な場合もある。左側心臓交感神経節切除術の有効性も報告されているが,日本では保険適用外である。
二次性QT延長症候群の場合,誘因の除去が優先される。薬剤誘発性のQT延長であれば,原因薬剤の中止が必須である。低カリウムや低マグネシウムなど電解質異常に伴うQT延長であれば,電解質補正が優先される。誘因除去後もQT延長が遷延するようであれば,潜在性の先天性QT延長症候群の可能性があるため,その治療に準じる。
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