抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome:APS)は,病原性自己抗体である抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibodies)の存在下で起こる自己免疫性血栓症ならびに妊娠合併症である。APSでは,静脈血栓のみならず動脈血栓をきたすことが特徴的であり,脳血管障害や深部静脈血栓症をきたす頻度が非常に高い。妊娠合併症に関しては習慣流産が最も多いが,子宮内胎児発育不全や妊娠高血圧症の発症も知られている。また,APS患者の1%程度に,急激な多臓器不全(主に中枢神経と腎)をきたし,重症呼吸不全や重篤な血小板減少を合併して高率に致死的な経過をたどる劇症型抗リン脂質抗体症候群(catastrophic antiphospholipid syndrome:CAPS)と呼ばれる病態もみられる。
血栓症のリスクがない若年者の血栓症,または全身性エリテマトーデス(SLE)患者の血栓症や妊娠合併症を認めた場合は,抗リン脂質抗体を測定する。
APSは自己免疫性の血栓性疾患であるが,グルココルチコイド(GC)や免疫抑制薬による血栓予防効果は明らかではない。APSは血栓症再発率が高く,慢性期管理においては特に二次予防(再発予防)が重要となってくる1)。血栓症の二次予防は静脈血栓症,動脈血栓症にわけ,さらに個人の血栓リスクを考慮した管理を行う。原則は,血栓症の可逆的なリスク因子である高血圧症,糖尿病,脂質異常症,喫煙,肥満,経口避妊薬使用などを極力減らした上で,抗凝固療法(ワルファリン),抗血小板療法,または両者を併用する。また,抗リン脂質抗体を用いた血栓発症リスクの層別化が提唱されており,複数の抗リン脂質抗体が陽性,ループスアンチコアグラントの持続陽性,抗カルジオリピン抗体または抗β2グリコプロテインI抗体が持続して高力価である場合は,高リスクに定義される2)。
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