副甲状腺機能亢進症(hyperparathyroidism)は,副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)の分泌亢進による骨,カルシウム(Ca)などの代謝異常をきたす疾患である。副甲状腺の腫瘍や過形成からのPTH過剰分泌のため,高カルシウム血症,尿路結石症,骨粗鬆症などをきたす原発性副甲状腺機能亢進症と,慢性腎不全,低カルシウム血症,ビタミンD欠乏症などによりもたらされる続発性副甲状腺機能亢進症に大別される。本稿は前者のみ取り上げる。
本症の発症率は約1300人に1人で,加齢とともに増加する1)。男女比は1:2で女性に多い。副甲状腺腺腫が80~90%,残りがほぼ過形成で,副甲状腺癌は1%未満である。過形成は多発性内分泌腫瘍症など遺伝性の可能性がある。
病態は,骨吸収亢進による骨Ca喪失,腎からのCa再吸収の増加,腸管からのCa吸収増加である。
外来患者の高カルシウム血症の90%は本症と報告されている1)。近年は無症候性の症例が大半である。
尿濃縮力障害による多尿のため,口渇・多飲が出現する。重症化すると,嘔気,食思不振,便秘などの消化器症状がみられる。またガストリン分泌亢進から胃酸分泌が促進され,逆流性食道炎や消化性潰瘍を引き起こす。これらの消化器症状の結果,飲水が不十分となり,脱水が進むと,さらに高カルシウム血症が悪化し,傾眠・昏睡などの意識障害と腎不全が出現する。これらの病態が急速に進行して重篤化する場合があり,高カルシウム血症クリーゼと呼ばれる。
重炭酸イオン再吸収抑制による尿アルカリ化のためCa塩の溶解度が低下して,主にシュウ酸Caによる腎結石症をきたす。腰背部痛,疝痛,血尿などや,腎機能低下も認める。
骨代謝回転の亢進と血管に富んだ線維組織の増加,また過剰な破骨細胞の出現により囊胞性線維性骨炎と呼ばれる特有の病変が生じる。骨量,特に皮質骨量が減少し,骨粗鬆症もきたす。これらの結果,骨痛,病的骨折などを認める。
下記①~③を満たせば本症と診断される。
①高カルシウム血症,かつ正または低リン血症:血清Ca濃度は,Payneの補正式で補正する(「副甲状腺機能低下症」の稿参照)
②尿中Ca高値(Ca/Cr>200mg/gCr,FECa>2.0%)
③intact PTHあるいはwhole PTH基準値下限以上
④(参考)高Cl性代謝性アシドーシス(Cl/P>35)
本症の治療は手術が第一選択のため,診断が確定後,局在診断のため画像検査を行う。副甲状腺エコーと副甲状腺99mTc-MIBIシンチグラフィは必須である。副甲状腺癌が疑われる場合には,頸部造影CT/MRIも行われる。
骨単純X線,骨塩定量,腹部単純X線,腹部CT,腹部エコー,腎盂造影検査,上部消化管内視鏡検査,骨型アルカリホスファターゼ,procollagen type I C-terminal propeptide(PICP),オステオカルシンなどの骨代謝マーカー,血清25水酸化ビタミンDなど。
海外から手術適応のガイドラインが発表されており2),手術が原則である。手術不能例や術後再発例には,生活指導と薬物治療を行い,血清Ca濃度低下と骨吸収抑制を図る。骨吸収抑制作用を持つ骨粗鬆症治療薬を用い,高カルシウム血症に対しては,Ca感知受容体作動薬レグパラⓇ錠(シナカルセト塩酸塩)かオルケディアⓇ錠(エボカルセト)を用いる。エボカルセトのほうが薬物相互作用が少なく,嘔気などの消化器症状も軽減されている。なおCa補給薬とPTH製剤/PTHrP(PTH related protein)製剤は禁忌である。また,活性型ビタミンD製剤も病態を悪化させる可能性が高く,不適切である。
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