わが国の「糖尿病診療ガイドライン 2024」では「脂質異常症を合併した2型糖尿病患者」に対し「糖尿病網膜症の進行抑制に有効である可能性がある」とされているフェノフィブラートだが、脂質異常症合併の有無を問わず「有効」であることが、ランダム化比較試験(RCT) “LENS"の結果、明らかになった。ただし腎機能は低下する。6月21日から米国オーランドで開催された米国糖尿病学会学術集会にて、オックスフォード大学(英国)のDavid Preiss氏が報告した。
LENS試験の対象はスコットランド在住で、非増殖性網膜症/黄斑変性を認めた18歳以上の糖尿病(DM)1151例である。脂質異常症合併の有無は問わない。平均年齢は61歳、73%が男性だった。DM罹患期間は平均18年、HbA1c平均値は8.2%、26%が1型DMだった。網膜症は96%が軽症の両眼性で、黄斑変性は片眼性を含め10%に認められた。脂質異常症は導入基準でないため、トリグリセライド(TG)中央値は140 mg/dL弱、HDLコレステロール平均値は51 mg/dLだった。ただし75%がスタチンを服用していた。
まずスクリーニングで適格と判断された1484例がフェノフィブラート72.5~145 mg/日を約8週間服用(導入期間)した後、推算糸球体濾過率(eGFR)「≧30mL/分/1.73m2」だった上記1151例が、あらためてフェノフィブラート群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で観察された。
フェノフィブラートはナノ粒子製剤とし、用量は原則として145 mg/日だが、eGFR「<60 mL/分/1.73m2」例では同剤を2日に1錠服用した。
・1次評価項目
4年間(中央値)観察後、1次評価項目である「増殖性網膜症への増悪/糖尿病性網膜症治療開始」リスクはフェノフィブラート群で有意に低下し、プラセボ群に対するハザード比 (HR)は0.73(95%信頼区間[CI]:0.58-0.91)だった。
両群の発生率曲線は試験開始直後から乖離を始め、3年過ぎまでは緩やかながら乖離を続けた(その後、差は縮小傾向)。このフェノフィブラートによる1次評価項目抑制作用は、「性別」や「年齢の高低」(60歳の上下)、「1、2型DM」などを問わず一貫していた。さらにフェノフィブラートの1日服用量が異なるeGFR「≧60 mL/分/1.73m2」と「<60 mL/分/1.73m2」の間でも一貫していた。
・腎機能
一方、腎機能はフェノフィブラート群で有意な低下を認めた。すなわち導入期間前にはおよそ「87mL/分/1.73m2」だったeGFRだが、導入期間終了時には約「76 mL/分/1.73m2」に低下。さらにランダム化後に同薬を中止したプラセボ群では「85 mL/分/1.73m2」弱まで回復し、試験終了時も「81.9 mL/分/1.73m2」だったが、フェノフィブラート群では回復することなく、試験終了時の値は「73.9 mL/分/1.73m2」だった(群間差:7.9 mL/分/1.73m2、95%CI:6.8-9.1 mL/分/1.73m2)。
・代謝
脂質代謝、糖代謝ともフェノフィブラート群における変化は非常に小さかった。TGでさえプラセボ群に比べた低下率は14%だった。またHbA1cもプラセボ群とまったく差はなかった。
このように血中代謝マーカーがほとんど動いていないにもかかわらず、1次評価項目に有意差がついた点をPreiss氏は「興味深い」と評した。
同氏はまた、LENS試験で示されたフェノフィブラートによる糖尿病性腎症抑制作用はRCTメタ解析 [Preiss D, et al. 2022] と軌を一にするものだと評価し、信頼性は高いとの考えを示した。
本試験は英国国立医療技術評価機構(NICE)から資金提供を受け実施された。
また報告と同時に論文が、NEJM Evidence誌ウェブサイトで公開された。