GIP/GLP-1-RA・チルゼパチドは、CV高リスクの過体重/肥満2型糖尿病(DM)例に対する推算糸球体濾過率(eGFR)低下抑制作用とアルブミン尿改善作用が、ランダム化比較試験(RCT)"SURPASS-4"から示唆されている [Heerspink HJL, et al. 2022] 。しかしCVリスクが高くない場合、eGFR低下抑制は期待できないかもしれない。6月21日から米国オーランドで開催された米国糖尿病学会(ADA)学術集会にて、フローニンゲン大学(オランダ)のHiddo J. L. Heerspink氏がRCT "SURMOUNT-2"後付解析の結果として報告した。
SURMOUNT-2試験の対象は、BMI「≧27」kg/m2の2型DM 938例である。ただしインクレチン関連薬使用例は除外されている。日本を含む7カ国から登録された。平均年齢は54.2歳、女性が51%を占めた。BMI平均値は36.1 kg/m2、平均体重は100.7 kgだった。CV疾患既往例は少なく、全体の10%のみだった。また血圧平均値は130.5/79.8 mmHg、HbA1cは8.0 %だった。
これら938例はチルゼパチド群(10 mg/日群、15 mg/日群)とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で72週間観察された。今回後付解析されたのは腎機能とアルブミン尿に対する影響である(本試験ではチルゼパチドの有意な減量作用を確認 [Garvey WT, et al. 2023] )。
・eGFR
72週間にわたるeGFRの推移は、チルゼパチド群とプラセボ群間で全く差を認めなかった(チルゼパチド群:98.3→95.8 mL/分/1.73m2、プラセボ群:96.4→96.0 mL/分/1.73m2)。クレアチニンではなくシスタチンCから推算したGFRでも同様だった。またチルゼパチド群、プラセボ群を問わず、クレアチニンeGFRの変化幅は試験開始後の減量幅とは全く相関していなかった。
・アルブミン尿
一方、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の72週間後低下率は、チルゼパチド群で有意に大きかった(45.5 vs. 20.9 %)。両群間の有意差は、試験開始24週後の時点で認められた。
同様に72週間後における微量アルブミン尿から正常アルブミン尿への改善割合を比べると、チルゼパチド群では開始時の24.6%中12.4%(50.4%)で認められ、プラセボ群の24.1%中5.7%(23.7%)よりも高値だった(検定なし)。
UACR改善と体重変化の相関については言及がなかった。
質疑応答では「SGLT2阻害薬併用の有無」で、チルゼパチドによる腎保護作用に差があったかが問われた(本試験では20%がSGLT2阻害薬を併用)。
Heerspink氏によればチルゼパチドによるUACR低下作用は、SGLT2阻害薬併用の有無に影響を受けていなかったとのことだ(データ提示なし)。
同氏はさらに本学会で報告されたRCT "FLOW" 追加解析(GLP-1-RAによる心腎保護作用にSGLT2阻害薬併用の有無が及ぼす影響を検討 [本欄記事] )にも言及し、GLP-1-RAとGIP/GLP-1-RAでは腎保護作用機序が異なっている可能性も指摘した。
なおチルゼパチドによる長期間の腎保護作用をプロスペクティブに評価する試験として同氏は、RCT ”SURMOUNT-MMO”を挙げた。2次評価項目として評価されるという。同試験はCV高リスク非DM肥満例に対するチルゼパチドのCVイベント抑制作用をプラセボと比較するのが主目的で、2027年終了予定である [ClinicalTrials. gov] 。
SURMOUNT-2試験はEli Lilly and Companyから資金提供を受けて実施された。また同社からは原著者として6名が参加した。