治療の基本は,不足しているグルココルチコイドの補充(場合によってはミネラロコルチコイドも)である。
副腎クリーゼにみられる症状には何ひとつ特異的なものがないので,意識障害,ショックの症例に接したときには,その可能性を頭の片隅に置いておくことが大切であり,他の原因や急性腹症をきたす疾患などと鑑別する。問診・診察に加え,低Na,好酸球増多症など,副腎クリーゼが疑われたら,血中コルチゾールの検査結果を待たず,直ちに治療を開始する。
生涯にわたって補充する必要性と疾患予後の観点から,生理的なコルチゾール分泌量(健常成人の推定1日産生量9~11mg/m2)と日内変動に沿った至適補充療法が望ましい。
一手目 コートリルⓇ10mg錠(ヒドロコルチゾン)1日1.5錠分2~3(2回の場合は朝10mg・夕5mg,3回の場合は朝7.5mg・昼5mg・夕2.5mg)
二手目 〈低血圧が続く場合,一手目に追加〉フロリネフⓇ0.1mg錠(フルドロコルチゾン酢酸エステル)1回0.5~1錠1日1回(朝食後)
一手目 速やかに,生理食塩水500~1000mL/時の速度で点滴静注(心機能監視下)すると同時に,水溶性ハイドロコートンⓇ注(ヒドロコルチゾンリン酸エステルナトリウム,以下HC)100mgを静注後,5%ブドウ糖液中にHC 100~200mgを混注した溶液を24時間で点滴静注(あるいはHC 25~50mgを6時間ごとに静注)
二手目 〈一手目に追加〉細胞外液量減少と低血糖に対し,十分な補液と電解質の補正を行うとともに,副腎クリーゼの引き金となった原疾患に対して,昇圧薬,抗菌薬などを投与する。ただし,急性期治療に伴い血清Na濃度が急速に回復すると浸透圧性脱髄症候群のリスクとなるため,慎重にモニターする
感染症による発熱時,抜歯,強い運動などのストレス時には2~3倍に増量する旨を繰り返し指導しておく。緊急時に備え,病名・ステロイド内服量・処置・連絡先を記載した緊急時用のカードを携帯するように指導する。
【参考資料】
▶ Stewart PM, et al:Chapter 15 The Adrenal Cortex. Williams Textbook of Endocrinology. 13th ed. Melmed S, et al, ed. Elsevier, 2015, p524-33.
▶ 日本内分泌学会, 他:日内分泌会誌. 2015;91(Suppl Sep.):1-78.
宗 友厚(川崎医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科学教授)