八田内科医院は,京都市左京区に位置し,比叡山のふもと,修学院離宮の近くにあります。1969年に父が開業し,2013年に私が継承しました。それまでは,京都府立医科大学第二内科の医局人事で,京都府立医科大学附属病院や近江八幡市立総合医療センターに勤務し,現在も同センターの腎臓センター顧問を兼任しています。京都府立医科大学在職時の恩師である武田和夫先生に教えて頂いた,適切な臓器障害評価と降圧治療のノウハウが,今も私の高血圧診療の基礎になっています。
当院は,一般内科のみならず,京都では数少ない腎臓高血圧内科も標榜しており,地域の高血圧対策に力を入れています。勤務医時代には,脳卒中や腎不全による人工透析など,臓器障害の進んだ患者層を診る機会が多かったのに対し,開業してからは一次予防に携わることが多くなり,初期対応の重要性を感じています。
本稿では,私がルーチンに実践している高血圧の日常臨床をご紹介するとともに,俺流の「クリニカルパール」についても私見を交えてお伝えしたいと思います。エビデンスに基づかない部分もありますが,ご容赦頂ければと思います。
初診の高血圧患者さんには,次のことを同時並行でルーチンに行っています。①原因精査(二次性高血圧の除外),②標的臓器障害の評価,③現状血圧評価,④治療です。
二次性高血圧の除外は,初診患者さんにおいてとても重要です。高血圧のガイドラインに記載されている二次性を疑う所見も重要ですが,私は高血圧初診の全例に安静15分の後に,アルドステロン/レニン比,カテコラミン,コルチゾールを測定しています。最も頻度の高い原発性アルドステロン症は,臓器障害が強く,治療の修飾が加わると鑑別しにくいため,治療開始前に鑑別したほうがよいと考えています。全例に検査することは医療費の高騰をまねくという批判もあるかもしれませんが,高血圧専門医が二次性を見逃すわけにいかないこと,しっかりと血圧が下がらず,合併症を起こしてしまうほうが,医療費が高くつくかもしれないことなどから,積極的に実施しています。
また二次性高血圧の中でも睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)は,できるだけ早い段階でスクリーニングします。いびきの有無,ベッドパートナーからの無呼吸の指摘はもちろん,顎の形,つまり小顎の方は無呼吸の可能性がありますので,できるだけ初診時にはマスクを外して顔を見せてもらうようにしています。昼間の眠気が少ないSASは案外多く,昼間の眠気がないことはSASを否定する根拠になりません。
少し変わった症状として,悪夢を見るということで,先日,簡易ポリソムノグラフィー(PSG)を実施したところ,無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index:AHI)が40以上という重症SASでした。SASは高血圧を助長させるばかりか,不整脈や心不全の悪化因子となります。最近では,心房細動とSASの関連が注目されています。さらには,SASが腎機能悪化因子でもあることをSakaguchiらが以前に研究報告しました1)。この腎機能悪化因子について,少し説明を加えたいと思います。
私が腎臓専門医として基幹病院で働いていた頃,慢性腎不全の進行をくいとめるという,慢性腎不全検査教育入院を推進していました。新型コロナウイルス感染症の流行により,この教育入院が激減したと聞いていますが,当時は年間100例近い入院を経験しました。①腎機能を悪化させる要因を整理すること,②心血管合併症を早期発見,治療すること,③生活習慣相談,の3つの目的を達成するために,1週間の入院プログラムが組まれました。その中で,一晩だけPSG検査を全例に実施したのです。
詳細は論文1)に記載した通りですが,簡単に結果を説明すると,中等症以上の無呼吸が,慢性腎不全患者の約半数に認められ,約1割の患者さんが重症の無呼吸でした。その重症無呼吸合併の慢性腎不全患者では,血圧や蛋白尿など,腎機能に影響する因子を除外しても無呼吸の存在が単独の腎機能悪化因子だったのです。夜間の高血圧,夜間の腎臓の低酸素が腎臓を悪くすることは,考えてみると当たり前の病態かもしれませんが,これを証明した研究であると自負しています。それ以降,慢性腎不全を合併していない高血圧患者さんにもできるだけSASの有無を検査するようになったのです。