胎児発育不全(fetal growth restriction:FGR)は,胎児推定体重が胎児発育曲線を基準として −1.5SD未満の場合に診断される。その原因は母体因子・胎児因子・胎児付属物因子など多種多様であり,精査により原因を推定できることもあるが,明らかな原因が特定できないことも多い。また,FGRと診断された胎児には体質的に小さい胎児(constitutionally small fetus)や,胎盤機能不全により個々の胎児の発育ポテンシャルに達することができていない胎児(growth restricted fetus)が混在していることになる。狭義のFGRはgrowth restricted fetusを示し,真に発育が阻害されており周産期予後不良と関連する。一方,constitutionally small fetusは体質的に小さいだけであることから,周産期予後には異常を認めず医療介入は不要と考えられる。それゆえ,両者を区別することは重要であるが,現時点で正確な区別は困難と言える。
近年,FGRの病態や管理方針に違いがあることから,その発症時期により32週未満のearly-onsetと32週以降のlate-onsetに分類することが推奨されている1)。early-onsetでは,妊娠早期の絨毛細胞のらせん動脈内への侵入不全が高度であることが原因とされる。妊娠高血圧症候群の発症メカニズムと類似しており,約50%に妊娠高血圧症候群を合併する。胎児自体は未熟で小さいことから,低栄養環境への適応や耐性を持つと考えられている。早期に発症するため娩出時期も早くなることが多く,児の死亡率や合併症の頻度は高い。病状の進行は比較的穏やかであるため,子宮内での胎児の状況を見きわめながら,妊娠延長を目的とした胎児モニタリングが重要となる。
一方,late-onsetでは妊娠早期の絨毛細胞の侵入不全は軽度であるが,中期以降に徐々に胎盤障害が加わることで発症するとされる。胎児が成熟しているがゆえに環境の悪化に対する適応が弱く,妊娠後半期に頻度が上昇する子宮収縮がストレスとなり,突然の子宮内胎児死亡や死産の原因となる。胎児は成熟していることから妊娠終結が有効であるため,診断精度の向上が重要となる。
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