(概要) 12月施行のストレスチェック制度で産業医の業務負担が増大することを踏まえ、厚生労働省の「産業医制度の在り方に関する検討会」が制度の見直しに向けた議論に着手した。
同検討会の座長は相澤好治北里大名誉教授が務め、委員には産業医学や労働衛生の専門家、産業医のほか、専門職、経営者、労働者の各団体の代表が参画する。
9月25日に開かれた初会合では、厚労省が制度の見直しに向けた論点(別掲)を提示した。同省は労働安全衛生法の改正も念頭に置いているが、論点が多岐にわたることから、「とりまとめには1年半以上かかる」(同省担当官)見通しだ。
●実際に活動している産業医は6割
会合では、現場の産業医の実態として、日本医師会認定産業医1万人を対象に実施したアンケート調査の結果(有効回答4153人)について、道永麻里委員(日医常任理事)が報告した。
それによると、「産業医活動を行っている」と回答したのは2578人(62%)で、そのうち産業医活動に従事する時間が「月5時間未満」とした回答は約6割を占めた。月1回以上の実施が義務づけられている職場巡視については、実施回数が年間3回以下とした回答が約4割に上った。
これを受け石田修委員(石田労働安全衛生コンサルタント事務所所長)は「産業医の職務が多すぎる。メンタル不調者の対応など専門職に任せられる仕事もあるはず」と指摘。道永委員は「最近の産業医はメンタル不調者の対応に追われ、職場巡視まで手が回らない。嘱託産業医からはストレスチェック導入を機に辞めたいとの声も聞く」とし、「そうならないよう医師会の研修の充実を図る」との考えを示した。
●「産業医にしかできない職務」が今後の焦点
職務範囲については、「産業医にしかできない職務とは何か」を巡って議論が展開された。
大神あゆみ委員(日本産業保健師会会長)は「就業上の措置の医学的判断は医師にしかできない」と強調。土肥誠太郎委員(三井化学本社統括産業医)は「現場監督とは異なる医学的見地から作業環境の改善を進言できる」と指摘。三柴丈典委員(近畿大法学部教授)は「産業保健のリーダーはやはり医師だ。医師になれるほどの能力と診療に裏打ちされた発言に説得力があるからこそ、事業者はそれに従う」と、統括役としての産業医の重要性を指摘した。
議論を進める上での留意点については、森晃爾委員(産業医大教授)が「嘱託産業医と専門産業医では果たせる役割に違いがあることを考慮すべき」と述べ、すべての産業医を同一視しないよう提案。
このほか複数の委員から、産業構造に占めるサービス業の割合の高まりや、事業場の経営形態、雇用形態の多様化を考慮すべきとの指摘が相次いだ。
検討会では今後、各業種の事業場で求められる労働衛生管理を踏まえつつ、産業医にしかできない職務を明確化していくことになりそうだ。
【記者の眼】厚労省は産業医を産業保健のリーダーに位置づけている。ただ、1972年の制度開始以降、産業医の職務範囲は一貫して拡大しており、個々の実務に時間と労力をとられがちだ。産業医が職場の産業保健全体を俯瞰できるだけの余裕を持てる制度設計が必要ではないか。(F)