【概要】日本糖尿病学会と日本老年医学会は、高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)を初めて策定し、20日に公表した。患者の身体機能や認知機能、年齢、重症低血糖リスクなどを考慮して個別性を重視した目標値の設定を推奨。重症低血糖を予防するため目標の下限値も設定した。
高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)(図)は、両学会の合同委員会(日本糖尿病学会代表委員:羽田勝計旭川医大客員教授、日本老年医学会代表委員:井藤英喜東京都健康長寿医療センター理事長)が昨年5月から検討していたもの。20日に京都市で開催された日本糖尿病学会年次学術集会の特別企画で公表された後、記者会見(写真)も行われ、両学会の幹部が説明した。
●門脇理事長「高齢者は心身機能に多様性大きい」
「目標」の基本的考え方は、(1)患者の特徴や健康状態(年齢、認知機能、身体機能、併発疾患、重症低血糖リスク、余命など)を考慮して個別に設定、(2)重症低血糖が危惧される場合は目標下限値を設定、(3)患者の個別性を重視し、目標値を下回る設定・上回る設定も可能─の3点。高齢糖尿病患者は認知機能やADLの低下が特徴であることから、これらの評価に基づいて3つのカテゴリーに分類した上で、重症低血糖のリスクや年齢などによって目標値を設定する。
例えば、認知機能が正常でADLが自立している「カテゴリーI」の場合、重症低血糖のリスクがない場合には目標値は7.0%未満となるが、75歳以上で重症低血糖が危惧される薬剤を使用していると、目標値8.0%未満・下限値7.0%となる。一方、食事療法や運動療法だけで血糖低下が可能な場合には6%未満とするなど、患者の個別性に配慮することが強調されている。
日本糖尿病学会は2013年に、成人の血糖コントロール目標値(熊本宣言)を公表。合併症予防の中心目標をHbA1c7%未満としつつも、患者の状態に応じて個別に設定することを推奨した。同学会の門脇孝理事長は、「目標」は熊本宣言を踏襲したと説明した上で、糖尿病患者の3分の2は高齢者であると指摘。「熊本宣言では個別目標の具体的基準までは明示していなかったが、高齢者は心身の機能に多様性が大きいため、日本老年医学会のデータやノウハウを組み合わせて、熊本宣言を運用できる形にした」と解説する。
下限値を設けたのは、近年、高血糖のみならず重症低血糖も認知症や心血管イベントのリスクとなる「Jカーブ現象」が明らかとなったため。重症低血糖が危惧される薬剤として、“インスリン製剤、SU薬、グリニド薬など”としたことについて羽田氏は、「今後他の薬剤でも起きるか見極めるために“など”を入れた」と説明。さらに門脇理事長は、上記薬剤を使用していなくても多剤併用など薬剤使用による有害事象に注意することを強調した。
●簡単な認知機能・ADLの評価法を1年後に公表予定
認知機能とADLの評価は表に示すような既存の評価法を用いる。具体的な評価方法など詳細は日本老年医学会のホームページに掲載されている。
井藤氏は「それぞれ評価するのに5~10分かかることが課題。現在、簡単な評価方法を検討中で、1年後をメドに公表したい」との方針を示した。羽田氏は「通常の糖尿病外来で評価するのは現時点で難しいのも事実」と認め、他職種と連携して重症低血糖のリスクが高い人から始めることを提案した。
【記者の眼】
米国糖尿病学会・老年医学会、欧州糖尿病学会、国際糖尿病連合も高齢者糖尿病の血糖コントロール目標を発表しているが、薬剤使用の有無や年齢を考慮しているのは日本のみで、より具体的な基準といえる。臨床現場で広く用いられるために、認知機能・ADLの簡便な評価法の早期確立が待たれる。(N)