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抗PCSK9モノクローナル抗体製剤の効果

No.4778 (2015年11月21日発行) P.52

小倉正恒 (国立循環器病研究センター研究所病態代謝部)

登録日: 2015-11-21

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

スタチンによる脂質低下療法が心血管疾患発症を抑制することは周知の事実ですが,家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH),ハイリスク冠動脈疾患などでさらに脂質低下が望まれる例も経験します。時に筋症状などのスタチン不耐症も問題となります。
最近,スタチンと同様にLDL受容体発現を活性化する抗PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)モノクローナル抗体製剤の臨床効果が注目されています。その現状と展望について,国立循環器病研究センター・小倉正恒先生のご教示をお願いします。
【質問者】
綾織誠人:所沢ハートセンター臨床研究部長/防衛医科大学校神経・抗加齢血管内科

【A】

PCSK9は2003年に常染色体優性遺伝形式をとる高LDLコレステロール(LDL-C)血症家系の解析から発見されました。その後,PC
SK9は蛋白分解酵素であり,主に肝臓においてLDL受容体と複合体を形成し,その分解を促進していること,PCSK9の機能喪失型変異を有する患者は低LDL-C血症を呈し,冠動脈疾患の発症リスクが88%も低下することが報告されました。
PCSK9の合成は,LDL受容体と同様にスタチンによって促進されます。すなわち,PCSK9が作用しなければスタチンはより強力なLDL-C低下作用を有することになります。スタチン投与量を2倍に増やしても血清LDL-C値は約6%しか低下しないという「スタチン6%のルール」の機序の一部はこのことにより説明できます。
そこで,各製薬会社はPCSK9阻害薬の開発にしのぎを削っています。一般的には経口投与が可能な小分子阻害薬の開発が行われますが,開発は困難をきわめています。その理由として,PCSK9とLDL受容体が互いに接するように相互作用しているために酵素ポケットのような構造がなく,設計が困難であることなどが挙げられています。
現在のところ,最も有効なアプローチと考えられているのがPCSK9とLDL受容体の結合を阻害する抗PCSK9モノクローナル抗体です。
Amgen社の抗体医薬AMG145(evolocumab)については,スタチン不耐性患者,FHヘテロ接合体患者などを対象に第2相試験が実施され,2週ごとのAMG145の皮下注射により41~66%のLDL-C低下が認められ,重篤な副作用の発現はみられませんでした。
AMG145の最も重要な臨床的アウトカム(第3相)試験であるFOURIER試験は,心筋梗塞もしくは脳卒中の既往があり,最大用量のアトルバスタチン(±エゼチミブ)を内服しているにもかかわらずLDL-C値が70mg/dL以上もしくはnon-HDL-C値が100mg/dL以上の2万人を超える患者を対象として行われ,主要評価項目を達成し,2015年8月に米国FDAはevolocumabの使用を承認しました。
Sanofi/Regeneron社のSAR236553/REGN
727(alirocumab)の第2相試験は,非FH患者,スタチンを内服しているにもかかわらずLDL-C値が100mg/dLを超える患者,スタチン(±エゼチミブ)を内服しているFHヘテロ接合体患者を対象に実施され,同様に50~70%のLDL-C低下率を達成しています。臨床的アウトカム試験である第3相試験は急性冠症候群を最近発症した1万8000名の患者を対象にODYSSEY Outcomes試験として行われ,主要評価項目を達成,2015年7月にFDAが使用を承認しました。
発見から薬剤開発までの期間が約10年という短さを考えても,PCSK9の注目度の高さがうかがえます。PCSK9の機能喪失型変異患者が健康かつ動脈硬化性疾患の発症リスクが低いことから,その阻害薬の有効性は非常に期待されるところですが,PCSK9欠損マウスが年齢とともにインスリン抵抗性を示すことやPCSK9がC型肝炎ウイルスの感染予防に関与しているという動物実験データもあります。今のところ臨床試験結果で抗PCSK9抗体投与による糖代謝の顕著な異常などは観察されていませんが,このようなPCSK9阻害に関する課題もあり,今後も多面的な研究が望まれます。

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