【Q】
血栓症既往があり,現行の診断基準を満たしている抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid antibody syndrome:APS)では,活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)が既に延長し,通常量のヘパリンではAPTTが変化しない女性がいます。その一方で,習慣流産でなくても自己抗体の検索が行われ,1回の血液検査でAPSあるいはその疑いと診断される女性もいます。生殖補助医療専門クリニックでAPSの治療を受けている妊婦が産科施設に紹介された場合,どのような注意を払って管理したらよいでしょうか。【A】
APSの周産期管理にあたっては,現行のAPSの診断基準(札幌クライテリア・シドニー改変)の十分な理解が必要です。つまり,診断基準を満たしていない症例に対して過剰な抗凝固療法を行うことは,副作用のリスクの観点から慎むべきです。特に検査基準の判断について,(1)検査基準となる抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibodies:aPL)検査項目はループスアンチコアグラント,抗カルジオリピン抗体,抗カルジオリピンβ2GPI抗体の3種類であり,抗フォスファチジルエタノールアミン抗体など,ほかのaPL項目は含まれないこと,(2)それらの検査基準値の陽性の判断は「中程度以上の力価または99パーセンタイル値」であり,通常の検査基準値による判断とは異なること,(3)12週以上の間隔をあけて2回以上陽性が確認されていること,は重要です。また,臨床的既往がないaPL偶発陽性例,生化学(的)流産の反復例や不妊症例におけるaPL陽性の意義についてのエビデンスは確立されていないため,臨床基準についての拡大解釈は避けるべきです。
1) ACOG Practice Bulletins.132, 2012 Dec.