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外陰痛への対応

No.4783 (2015年12月26日発行) P.59

森村美奈 (大阪市立大学大学院医学研究科 総合医学教育学准教授)

登録日: 2015-12-26

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

婦人科領域において外陰痛はポピュラーな主訴のひとつですが,時に他覚的所見に乏しく対応困難な症例に遭遇します。視診上,形態的外陰部異常は認めず,腟分泌培養検査も異常がないにもかかわらず,患者は痛みのためにうまく歩けず,座っていてもピリピリする,性交渉も持てないと訴えます。的確な治療が施されなければ,ドクターショッピングすることになります。このような場合,どのように対応して治療を行っていけばよいでしょうか。大阪市立大学・森村美奈先生のご教示をお願いします。
【質問者】
望月善子:獨協医科大学医学部産科婦人科教授/ 女性医師支援センター センター長

【A】

器質的疾患のない外陰痛の治療において最も大切なことは,患者の訴えを十分に傾聴し,「たとえ原因がわからなかったとしても医学的対応が必要な疾患である」ということを伝えることです。その上で,慢性的な外陰部の痛みに対する対症療法を行います。以下,当院での治療経験をもとに回答いたします。
慢性外陰痛には,消炎鎮痛薬のような急性症状に対する薬剤を用いるのではなく,患者を苦痛から解放する方法を模索します。身体に危機的ではない痛み刺激が慢性痛となる機序は,痛みの下行性抑制系の機能不全が一因とされ,治療にはその賦活化を期待した鎮痛補助薬をいくつか組み合わせて用います。主な例を挙げると,漢方薬では,附子・山薬・沢瀉などを含む牛車腎気丸や八味地黄丸で一定の効果を経験しており,また機序は不明ですが,当帰飲子を用いて改善した例も散見します。抗うつ薬では,主に三環系抗うつ薬やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor:SNRI)を用います。また,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液などの効果も期待できます。一方で,経験的に女性ホルモンの単独処方による効果は比較的低いです。
しかし,これらの治療は効果発現に時間がかかるため,その間の外陰痛の緩和にアズレン含有軟膏の併用が役立ちます。また近年,神経障害性疼痛の治療薬として発売されたプレガバリンが著効する症例をしばしば経験します。そのため,器質的疾患を認めない外陰痛にも,神経伝達物質が放出される何らかの引き金は存在すると思われます。しかし,その発症の経緯は個々によって様々で,不明な場合が多くみられます。
性交痛を伴う場合は,ワセリンや腟用潤滑ゼリーとともに,腟ダイレーターを用いた系統的脱感作療法の効果が期待されます。“痛みを感じない程度のダイレーターを腟に挿入する”といった,不安刺激とその状態でのリラクセーションを試みる,という行動を繰り返すうちに,徐々に痛みから解放されることが期待できます。器質的疾患のない外陰痛の発現メカニズムは明らかではありませんが,上記のような神経伝達物質をコントロールする薬剤を患者の症状に合わせ,組み合わせて使用しています。
しかし,患者の苦痛が軽減するまでに数カ月から数年かかる場合も多く,一度軽快した症状が再燃することもあります。そのため,患者はしばしば「もう一生治らないのではないか」という不安を抱き,治療のモチベーション維持に苦慮します。そのため,治療の際には投薬のみならず,共感と受容を持った傾聴を繰り返すことが大切です。そして,症状にまつわる不安や疑問には適宜わかりやすく解説するなど,患者の気持ちに寄り添う医療を行うことが痛みの緩和の助けになります。“原因のない痛みではなく,原因のわからない痛み”が患者を苦しめているということを,患者とともに受け止めていくことを心がけています。

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