【Q】
2015年からわが国でもリアルタイムCGM(continuous glucose monitoring)が使用可能となり,1型糖尿病患者のインスリン治療の質が大きく改善することが期待されています。どのような症例がリアルタイムCGMを用いたsensor augmented pump(SAP)療法の積極的な対象となるのか,また導入にあたり医療従事者が注意すべきことなどについて,徳島大学・黒田暁生先生のご教示をお願いします。
【質問者】
片上直人:大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝 内科学(代謝血管学寄附講座)講師
【A】
[1]1型糖尿病とインスリン療法
1型糖尿病はインスリン分泌を担う膵β細胞が自己免疫により破壊される結果,インスリン分泌が枯渇する疾患です。このため生理的なインスリンの補充が必要です。これを模倣するように超速効型インスリンを持続的に補充するインスリンポンプ療法が1970年代に開発され,進化しました。一方でインスリンを注入するためには,その根拠となる血糖自己測定が必要です。1型糖尿病患者は簡易式の血糖測定器を用いて1日4回ほど血糖測定を行い,血糖値の補正や食事における追加インスリン量を決定しています。
[2]SAP療法とは
CGMは,皮下間質のブドウ糖濃度をセンサーによりモニターすることによって血糖管理に役立てる機器のことを示します。中でも,リアルタイムCGMはその場での皮下間質におけるブドウ糖濃度が示されるもので,わが国では日本メドトロニック社製のミニメド620Gという機器1種類のみが認可されており,2015年2月から臨床導入されています。リアルタイムCGMとインスリンポンプを組み合わせた治療法をSAP療法と言います。CGMのブドウ糖濃度をインスリンポンプのモニターに表示することによって,インスリン注入量を調整することができます。SAP療法の導入は,血糖管理の上で大いに役立つことが報告されています(文献1)。また,その装着頻度が高いほど血糖管理の改善度が高いことも知られています(文献2)。
[3]SAP療法の積極的な対象患者とは
インスリンポンプ療法中の1型糖尿病患者で,(1)他人の介助を要するような重症低血糖発作を繰り返す場合,(2)予測のつかない血糖変動を繰り返す場合,(3)妊娠など厳格な血糖管理を要する場合,などが良い適応であろうと考えます。
[4]注意すべき点
導入初期には,食後の血糖が抱いていたイメージよりもはるかに高く上昇してしまい,下がってこないことにいら立ちを感じることが多くみられます。このため,その点をよく説明した上で開始することが望ましいと思います。
同じロットでも,センサーによっては測定値が不正確に表示されることは大きな問題です。また,やや低めにブドウ糖濃度が表示されることがあり,それに伴い低血糖でもないのに頻繁に鳴る低血糖アラートは大変煩わしいものです。早急に測定精度を高めるとともに,プログラムを改正して頂きたいところです。
個人の医療費負担が30%でも,SAP療法では通常のインスリンポンプ療法よりも約1万円高くなり,外来での支払いが検査費用を含めて毎月約2万8000円(薬剤費別)ほどになります。健康保険組合により自己負担金の限度額が異なりますので,確認してみると金銭的に導入しやすい場合があります。
1) Battelino T, et al:Diabetologia. 2012;55(12):3155-62.
2) Bergenstal RM, et al:N Engl J Med. 2010;363(4):311-20.