【Q】
肥満症にはいわゆる水太りがあり,このような人は筋肉が少なく脂肪が多いという。水太りに五苓散,防已黄耆湯,大柴胡湯,桂枝茯苓丸などが奏効するメカニズムについて。また,肥満症に対する駆(瘀)お血剤の奏効メカニズムについて。肥満の改善に用いられる(瘀)お血剤には新陳代謝の改善などの現代医学的効用があるのか。文献を併せて。 (青森県 W)
【A】
漢方薬は単独では肥満症に対する効果はない。ナイシトールRは最も売れている一般医薬品の漢方薬で,これは防風通聖散である。そして防風通聖散の副作用報告として肝機能障害が多数報告されている(文献1)。筆者の経験から,ナイシトールを飲んだだけで痩せた人はきわめて少ないと言える。
新陳代謝の改善や栄養の吸収抑制などを目的として西洋薬が開発されようとしているが,それも実は単独の効果は期待できないであろうと筆者は思っている。肥満はある意味,こころの病である。漢方薬や西洋薬そのものに肥満改善の効果があったとしても,肥満の人は,それを上回るカロリーを摂取していることが多いため痩せないのである。「なんでも食べたい。なんでも飲みたい。でも痩せたい!」 という人が,漢方薬を飲めば痩せるというような都合の良い話はない。経験に基づいた処方と指導が大切である。そして漢方単独には結果を求めないことが漢方嫌いにならないコツである。漢方薬に含まれる生薬のある成分が有効なら,それを含む生薬を飲めばいいのであり,あえて,ほかの生薬が足されている漢方薬を飲む必要はない。
筆者は,漢方薬はラムネ程度の効果と思って処方するのがよいと思っている。大切なことは,漢方薬をコミュニケーションツールの1つとして利用することである。漢方薬を単独で処方しながら,炭水化物の制限や,汗がじわっと出るくらい負荷のある散歩を毎日30分,できれば2回などを勧めると,痩せていく。
マウスの実験で,たくさんの漢方薬を連日投与したが,痩せる漢方薬はすべて下剤であった。強制的に排泄させるため,カロリーの吸収量が減るのであろう。つまり,人間でも下痢を思いっきり誘導すれば痩せることになるが,健康に障るため臨床では無理である。
運動の効果は実証の人には特に有効である。モダン・カンポウ的な実証と虚証の判断基準は筋肉量である。そして筋肉量と消化機能はほぼ比例する。ここでは,胃への副作用がある麻黄をたくさん飲むことができる人は実証,飲めない人は虚証,としている。
さて,実証は筋肉量が豊富であるので,運動でたくさんのカロリーを消費できる。また実証の特徴は,便秘や空腹,寒さや暑さに我慢強いことである。つまり空腹に強いのであるから,虚証よりも簡単に痩せる。
しかし,この筋肉質というモダン・カンポウ的な定量化は,実は失敗した。InBodyという器械で,脂肪量,筋肉量などを測定したところ,実際に麻黄を飲むことができている人である場合でも,筋肉量は相対的に少ないことがあった。また虚証で麻黄が飲めない人であるのに,実は測定値では筋肉量が多いこともあった。器械で判断するデジタル的な筋肉量ではなく,その人が醸し出す筋肉質の雰囲気が虚証・実証の判断基準であった。
筆者の外来で,漢方薬を処方しながら痩せる人はたくさんいる。それは漢方の多少の効果と日常生活の指導を行ったためであると思っている。
【文献】
1) 元山宏行, 他:日消誌. 2008;105(8):1234-9.
【参考】
▼ 新見正則:鉄則モダン・カンポウ 本当に今日からわかる漢方薬シリーズ①. 新興医学出版社, 2012.