(2)甲状腺良性腫瘍に対するTSH抑制療法の効果
2010年発行の『甲状腺腫瘍診療ガイドライン』(文献2)では,「良性と診断された腫瘍に対するTSH抑制療法の実施は非実施に比べて腫瘍を縮小させるか?」とのclinical question(CQ)11に対し,「エビデンスはなく,診療に利用・実践すべきかコンセンサスは得られない」(推奨グレードC2)とした上で,「甲状腺良性結節に対する甲状腺ホルモン剤投与によるTSH抑制療法は,1年以内の短期では有意な縮小が得られるとの報告が多いが,長期的にはその有効性は少なく,甲状腺ホルモン剤投与による心血管系や骨粗鬆症の合併症を考慮すると,甲状腺ホルモンによるTSH抑制療法は積極的に推奨できない」と回答している。
また,American Thyroid Association(ATA)のガイドライン(文献3)では,いくつかのランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)とメタアナリシスの結果から,ヨード欠乏地域においては,TSHを正常以下に抑制することにより,腫瘍径の縮小や新しい結節の出現を防止する効果が期待できるとしながらも,ヨード充足地域における効果は不確実で,50%以上の腫瘍縮小は17~25%の症例でしか認められないため,「ヨード充足地域での甲状腺良性結節に対するルーチンのTSH抑制療法は推奨されない」としている。
同様にAmerican Association of Clinical Endocrinologists, Associazione Medici Endocrinologi,and European Thyroid Association(AACE/AME/ETA)のガイドライン(文献4)では,細胞診で良性と診断された症例に対してのルーチンのTSH抑制療法は推奨しないと述べる一方,ヨード欠乏地域の若年者で,小さな非機能性結節を有する者に対しては,TSH抑制療法を考慮してもよいとしている。しかし,大きな結節や長期間存在する結節,TSHが正常下限以下(機能性結節)の患者,閉経後女性や60歳以上の男性,骨粗鬆症や心血管系の疾患,その他全身疾患を有する患者にはTSH抑制療法は行うべきではないとしている。