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LDL-Cや中性脂肪の下降過度に問題はあるか

No.4707 (2014年07月12日発行) P.62

寺本民生 (帝京大学医学部臨床研究医学講座特任教授)

登録日: 2014-07-12

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

脂質異常症患者にスタチン製剤,フィブラート製剤,レジン(陰イオン交換樹脂),エゼチミブなどで治療を行う場合,LDL-Cの低下が認められるが,LDL-Cや中性脂肪(TG)の下降過度により問題が生じるか。 (青森県 W)

【A】

まず,TGの下降過度については,低栄養以外では問題にならず,治療薬でそれほど強力な薬剤もない。そこで,ここではLDL-Cの下降過度についての問題点を中心に述べたい。LDL-Cを低下させる治療薬として,以前よりスタチンとレジンが効果的であるとされてきたが,2007年にエゼチミブが市販されたことで,最も強力な治療法としては,スタチンとエゼチミブの併用が選択されている。筆者らが調査した結果(文献1),この併用療法により,LDL-Cは約50%に低下することが期待できることがわかった。それでも,LDL-Cはせいぜい60~70mg/dLである。これが過度の低下と言えるであろうか。
欧米では,LDL-Cはthe lower,the betterの考え方が強く,たとえばアトルバスタチンは80mgまで使用されることがある。TNT試験(文献2)では,LDL-C低下の程度はたかだか50%(72mg/dL)である。また,ロスバスタチン20mgを用いたJUPITER試験(文献3)でも平均値で見れば70mg/dL程度である。これが過度の低下であるかというと必ずしもそうではないと思われる。本来,ヒトが誕生したときには,この程度のLDL-Cの値でしかない。つまり,ヒトという生物が完成するのに必要なLDL-Cの値はその程度ということになる。これらの試験で,特に目立った副作用があったわけではないが,JUPITER試験では糖尿病の新規発症がロスバスタチン群で有意に多く,この原因がLDL-Cの下降過度によるものか,薬剤によるものかということが問題となった。その後のスタチンを用いた試験のメタ解析(文献4)によれば,スタチンに共通した副作用であり,LDL-Cの過度の低下によるものではない可能性が指摘されている。
一方,脳卒中の二次予防試験であるSPARCL試験(文献5)ではアトルバスタチン80mg投与群において脳出血が多いことから,過度のLDL-C低下が脳出血を引き起こす可能性が指摘されている。ただし,脳出血発症患者の絶対数が少ないこと,これらの患者で血圧管理が十分でなかったことなどから,LDL-Cの下降過度が原因であるかどうか,まだ結論が出されていない。
最近はPCSK9という蛋白質に対してモノクローナル抗体を用いる治療法も出てきた。筆者らの行ったわが国における第2相試験ではLDL-Cが20mg/dLまで下がったものもある。LAPLACE-2という試験が2014年のACCで発表されたが,LDL-Cは20mg/dL程度まで低下している。この報告では12週間しか経過を見ていないので何とも言えないが,特別な副作用はみられていない。現在,この治療薬による長期にわたる大規模臨床試験が行われており,この試験で,極端なLDL-C低下を示した群での副作用の検討が必要となろう。いずれにせよ,わが国における最も強力なLDL-C低下療法でも,いわゆる下降過度は起こらないであろうし,特別な副作用を懸念する必要はないものと思われる。

【文献】


1) Teramoto T, et al:Curr Ther Res Clin Exp. 2012; 73(1-2):16-40.
2) John C, et al:N Engl J Med. 2005;352(14):1425-35.
3) Ridker PM, et al:N Engl J Med. 2008;359 (21): 2195-207.
4) Sattar N, et al:Lancet. 2010;375(9716):735-42.
5) Amarenco P, et al:N Engl J Med. 2006;355(6): 549-59.

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