【Q】
成長ホルモン(growth hormone:GH)は脂肪を燃やしながら成長するため,成長期を過ぎても出ている人は痩せやすいと聞いたが,肥満症とGHの病態的関連について。
また自律神経には交感神経と副交感神経があり,これらがバランスよく働いていると健康に過ごせるという。ストレスと肥満について詳しく。帝京大学の新見正則准教授に。 (青森県 W)
【A】
脳下垂体前葉から分泌される191個のアミノ酸から構成されるホルモンを成長ホルモン(GH)と呼ぶ。GHは子どものときだけに分泌されると誤解されていることが多いが,思春期前と比較すると,思春期の後半には約2倍になり,40歳前後で思春期前の約半分に,60歳前後で1/3になる。つまり,生涯を通じて分泌されているホルモンである。
(1)GHと肥満
子どもの頃にGH分泌不全になると成長障害が起こる。GHは測定可能であるため,大人になってからのGHの必要性は,GH分泌不全により引き起こされる症状を調べれば判明する。
まずGH分泌不全になると,血中の総コレステロール値やLDLコレステロール値が上昇する。そして動脈硬化症が促進される。また糖尿病になりやすく,内臓脂肪が増えて肥満になる。骨が弱くなり,さらに筋肉量が低下し,そして皮膚が乾燥する。精神的にも集中力の低下や,易疲労感,うつ症状などが生じる。
大人のGH分泌不全は脳の手術や外傷で生じる。また,前述のように採血で確認が可能であるため,GHの補充療法で上記の症状の軽快が確認できれば,それらの原因がGH分泌不全によるものであると結論づけることができる。
GH分泌量は日内変動しており,就寝時は昼間よりも分泌量が増えている。そのため,減量には快眠が必要だといった論調もみられる。快眠が体重減少をもたらすことは,筆者も睡眠時無呼吸症候群の患者が,CPAPを装着して痩せた経験を通して確認している。しかし,その関係性がGHの分泌と直接関係があるかどうかは不明である。詳細は参考文献をご参照頂きたい。
(2)ストレスと肥満
ストレスと肥満の関係は,実は明確ではない。つまり,ストレスは数値化できないため,確定しがたいのである。血中のコルチゾールを測定したり,動物実験では副腎の重さを量ることが行われているが,これはヒトでは簡単に行えない。
しかし,ストレスがあると,やけ食いをして,せっかくうまくいっていた減量作戦が崩壊することは多々ある。患者にリバウンドの理由を尋ねると,ストレスが原因だと答えることが多い。ストレス自体が過食を誘導するのか,ストレスによるホルモンの変化が肥満傾向に導くのかは判然としないが,臨床的にストレスは減量の大敵であることは間違いない。
【参考】
▼ 千原和夫, 島津 章, 他 監:Acromegaly Handbook. メディカルレビュー社, 2005.