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メソテリンの腫瘍マーカーとしての可能性

No.4738 (2015年02月14日発行) P.64

福岡和也 (近畿大学医学部堺病院腫瘍内科准教授)

登録日: 2015-02-14

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

メソテリンは,卵巣癌,中皮腫,肺癌,膵癌などの細胞表面に発現することが知られているが,将来,腫瘍マーカーとしての利用がどの程度期待されるか。その実用化の可能性について。 (大阪府 O)

【A】

メソテリンは,胸膜,腹膜および心膜腔の中皮内層の細胞膜表面に発現する糖蛋白であり,膵癌,卵巣癌,悪性中皮腫,乳癌,肺腺癌などの悪性腫瘍に過剰発現することが報告されている。メソテリンには3種類の異型が存在するが,その1つは細胞膜から遊離し血中へ放出されることから,可溶性メソテリン関連ペプチド(soluble mesothelin-related peptides:SMRP)と呼ばれる。
Robinsonら(文献1)は,血清SMRPの悪性胸膜中皮腫における診断的意義を最初に報告したが,近年,新しい定量的enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)キットであるMESOMARKRの開発によって,血清SMRPの測定が可能となった。悪性胸膜中皮腫血清診断におけるSMRP測定の感度は48~80%(中央値68.2%),特異度は72~99%と高く,優れた診断性能が報告された(文献2,3)。
わが国では,2010年,MESOMARKと同一の抗体を用いたchemiluminescence enzyme immunoassay(CLEIA)法による血清SMRP濃度測定キットであるルミパルス メソテリンが開発された(文献4)。本キットを用いた多施設共同試験の結果,悪性中皮腫におけるSMRP測定の感度は66%で,MESOMARKを用いた従来の報告とほぼ同等の結果が得られた(文献2)。これにより,2014年9月,SM
RPは悪性中皮腫に対する腫瘍マーカーとして,わが国で初めて保険収載されるに至った(実施料220点)。本検査の算定は,悪性中皮腫の診断補助,または悪性中皮腫の診断が既に確定した患者に対しては治療効果の判定,もしくは経過観察を目的として実施された場合に可能である。ただし,悪性中皮腫の診断補助を目的として実施される場合は,下記のいずれかに該当する患者が対象となる。
(1)石綿曝露歴があり,胸水,腹水等の貯留が認められる患者
(2)体腔液細胞診で悪性中皮腫が疑われる患者
(3)画像診断で胸膜腫瘍,腹膜腫瘍等の漿膜腫瘍が認められる患者
悪性中皮腫の確定診断には,胸膜生検などの病理組織学的アプローチが必要とされるが,高齢者や全身状態不良例では,侵襲的検査が困難で診断に苦慮する場合も少なくない。このような症例や上記(1)~(3)に該当する症例では,SMRPを用いた血清診断が重要な役割を果たすものと考えられる。わが国では,今後約30年間,悪性中皮腫の発生率および死亡者数の増加が予想されており,悪性中皮腫補助診断試薬としてのSMRPの有用性に期待が寄せられている。
一方,卵巣癌や膵癌の一部においても,血清SMRPの腫瘍マーカーとしての有用性を検討する報告が散見される。しかしながら,今後,SMRPが膵癌に対する早期診断指標として実用化されるか否かについては,大規模な前向き試験の蓄積によって,慎重に検証されるべきものと考える。

【文献】


1) Robinson BW, et al:Lancet. 2003;362(9396):
1612-6.
2) 福岡和也, 他:医と薬学. 2012;68(1):177-83.
3) Fukuoka K, et al:Mol Clin Oncol. 2013;1(6): 942-8.
4) 中町 衛, 他:医と薬学. 2011;65(2):261-7.

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