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糖尿病性認知症の病態とインスリン抵抗性改善薬の効果

No.4741 (2015年03月07日発行) P.58

羽生春夫 (東京医科大学病院高齢診療科主任教授)

登録日: 2015-03-07

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

糖尿病性認知症の臨床的特徴について。特に,インスリン抵抗性改善薬の効果を。
(長野県 M)

【A】

糖尿病は血管性認知症やアルツハイマー病(AD)の発症リスクを高めるが,さらに脳血管性病変やADの病理よりも,糖代謝異常に伴う神経障害がより密接に関連している一群が存在し,糖尿病性認知症(diabetes-related dementia)と呼ばれている(文献1)。本症は,ADと診断されていることが多いが,ADに特徴的なSPECT(single photon emission computed tomography)による頭頂側頭葉や後部帯状回の有意な血流低下がみられず,MRIにおいても認知機能障害をきたすほどの脳血管性病変は認められない。
臨床的には,(1)やや高齢である,(2)HbA1cが高い,(3)インスリン治療例が多い,(4)糖尿病の罹病期間が長い,(5)ApoE4保有者の頻度が低い,(6)大脳萎縮は明らかだが,海馬の萎縮が軽度である,(7)注意力の障害が高度であるが,遅延再生の障害が軽度である,(8)進行がゆるやかである,という特徴がみられる。
また,本症はアミロイドPETでも,アミロイドの集積が陰性,またはわずかに限局的な集積を示すのみのものが多く,脳脊髄液検査でも,ADに特徴的なリン酸化タウの高値やアミロイドβ42の減少がみられない。そのため,背景病理としてADは考えにくく,糖代謝異常と関連した非特異的な神経細胞脱落が推測されている。
さらに,血中のIL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカイン,尿中の酸化ストレスマーカーである8-OHdG(8-hydroxydeoxyguanosine)や8-イソプロスタンの有意な上昇がみられる。一方,血中の内因性抗酸化物質であるアルブミンや非抱合型ビリルビンの低下がみられ,酸化ストレスとの関連が示唆されている。また,終末糖化産物(AGEs)であるカルボキシメチルリジンの上昇もみられるなど,ADとは病態が異なる。
本症は糖尿病のコントロールが不良なことが多く,高血糖の是正によって認知機能の一部,特に注意・集中力などが一時的に改善されることが多い。したがって,治療は,食後高血糖を下げ,血糖の日内変動を抑制し,低血糖を回避することが基本となるが,前述したことから抗炎症作用薬,酸化ストレス抑制薬,AGEs抑制薬などの効果も期待される。一方,インスリン抵抗性改善薬のうち,チアゾリジン薬(ピオグリタゾン)はPPARγ作動薬として,実験的にはADマウスモデルで脳内アミロイドβの沈着を抑制する作用が報告されている。実際,糖尿病を伴うADでは,軽微ではあるが,インスリン抵抗性改善薬により認知機能障害の一時的な改善,進行抑制がみられており,本症においても期待される治療薬と考えられる。
さらに,まだ臨床例での報告はほとんどみられないが,最近のインクレチン関連薬(GLP-1作動薬やDPP-4阻害薬)にも神経保護効果がみられることから,今後期待できる治療薬となっていくかもしれない。

【文献】


1) 羽生春夫, 他:日内会誌. 2014;103(8):1831-8.

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